37話



 ――ボロッカスになったダイヤモンドヘッド。標高が1/3程まで縮んでしまったその小山が、段々とオレンジ色に染まってゆく。


 打ち寄せる細波の音と、夕焼けに照らされる破壊跡。

 何だかとても哀愁的な風景を眺めながら、ビーチで遊んでいた観光客達は帰路に着く。



「ウッひゃぁ広ぉ⁉︎」


「んふ〜」


 両手に大荷物を持った灰音が、東条とノエルが住んでいる部屋に入り驚愕する。なぜか得意げなノエルも部屋に入り、その後ろから同じく荷物を持った紗命が続く。


「……ここに、2人で、ねぇ、」


 ぐるりと辺りを見回した紗命は、散見される日常生活の跡に目を細める。


 そんな彼女を、灰音が荷物を下ろしながら嘲笑する。


「何また嫉妬?見苦しいわぁ〜」


「別に嫉妬なんてしてへんで?ただ、さぞ楽しい日ぃ過ごしたんやろうなぁ思てな?」


「ん。楽しかた」


「……」


 即答するノエルに、紗命はジト目を向ける。

 嫌味など全く通じない、ノエルの純粋な楽しかた宣言。紗命の様な人間には、こういう直球なのが1番の煽りになるのだ。


「あははははっ、そうだよね楽しかったよねノエル〜」


「ん。楽しかた」


「……黙り」


 置かれた大量の荷物の中身は、パーティ用の大容量フード諸々。ジュースやビール、シャンパン、お菓子。


 3人各々冷蔵庫に食料を閉まったり、ソファに座りパソコンを開いたり、部屋を散策しながら時間を潰す。


「ねぇ黄戸菊ー、亜門さんあとどんくらいだって?」


「もうすぐちゃう?今日はミーティング中止になったらしいで」


「あははっ、絶対ライオンさんと桐将君の所為じゃん!」


「やろうなぁ、ふふっ」


「ほらノエルっ、パソコンなんてやってないで部屋案内してよ!」


「んミャっ」


 灰音がノエルの顔を後ろからムニュる。


「ちょい、あんさんらも遊んでへんで手伝うてやっ」


「うぃ〜。じゃノエル、あいつ怒ると怖いから準備終わらせちゃお」


「おー」


「焔季はんは?今どこおるん?」


「ん〜どこだろ、聞いてみる」


 灰音が携帯をタップして、数秒。


「ホテルのエステだって。もうすぐ終わるらしい」


「自由やなぁ」


「じゃあ料理あっためちゃうよ?桐将君達ももうすぐ来るでしょ。どうノエ、あ、こら摘み食いしない!」


「ん〜。美味ぃ」


「ダメでしょ!出しなさい!」


「んべぇ」


「汚ったな⁉︎あはははっ」


 デロ〜ンとノエルの口から出てくるチキンの骨に、紗命がクスクスと笑う。


「てかノエル、桐将の連絡先うちにも頂戴」


「ん。いよ」


「あ、僕も僕も」


「せや、どうせならグループ作る?」


「ん」「良いじゃん」


 3人で連絡先を交換した後、紗命がグループを作り招待する。


「あれ?何で2つ?」


「?1つはマサいない」


「うちら女だけのグループや。桐将の監視兼報告、情報共有アカやな」


 ニヤリと微笑む紗命に、灰音とノエルもニヤリと笑う。


「紗命、流石」


「こういう所は素直に尊敬するよ。流石毒蜘蛛、網を張るのが上手い」


「黙り、あんさんのピザにだけ毒入れたろか?」


「「「クックック」」」


 3人が悪い顔で笑い合っていると、そこでインターホンが鳴る。


「んー」


 ノエルがトテトテとドアを開けると、バスローブ姿の紅が大量の酒類を持って立っていた。


「お、ノエル、有難う。お邪魔するよ」


「ん。どぞ」


 紅がリビングに入りドカッと酒をテーブルに置く。


「ちょっと焔季⁉︎その格好でロビー歩いてきたの⁉︎」


「なんだ、何か問題あったか?」


 胸元を指でクイッ、と開けた紅がニヤリと笑う。確信犯の笑みだ!


「痴女」


「痴女やなぁ」


「はっはっは、男共の視線が快感だったぞ?」


 数分後、インターホン。ノエルがトテトテとドアを開けた。

 シャンパンとソフトドリンク、デザート類を持った亜門が視線を下げる。


「おぉノエル殿、お邪魔しても良いか?」


「ん。どぞ」


「どうも」


 亜門はリビングに入り、固まる。


「……紅殿、他に服は無かったのか?」


「何だ、嬉しくないのか?」


 既に1人飲み始めていた紅が、わざとらしく唇を舐める。


「ノーコメントだ。何か手伝うことはあるか?」


「あ、じゃあ亜門さんお皿並べて!」


「了解した」


「……つまらん奴め」


 数分後、ガチャリと部屋の鍵が開き、ドタドタと何かが駆けてくる。


「ただいまぁ‼︎」


 東条が両手に肉を持ち、リビングへ飛び出した、


「おかえりなさい」「おかえり桐将君!」「ん〜」


 瞬間、東条の目が紅の胸に吸い込まれる。


「「「……」」」



 さて、どうなる。



 3人の女達が鋭い視線を向ける中、紅が動く。


「何だ?揉むか?」


 普段の東条なら、この瞬間、眼前に輝く天国の谷に向かってクラウチングスタートを切っていただろう。


 しかし、生まれ変わった彼は、



 ……一味違った。



「ハハっ、紅さん何て格好してるんすか!エロすぎますって」


「っ、も、揉まないのか?この私が許してるんだぞ?」


「え、まぁ嬉しいすけど、遠慮しときますよ。んじゃ俺シャワー浴びてくるんで。っ葵さん朧、俺先入っていいか?」


「おういいぞ」「ええ」


「あっちにも風呂あるから使いなー!」


 走ってゆく東条に、紅が膝から崩れ落ちる。




 完・全・勝・利‼︎




「「「シャぁッ(ボソ)」」」



 小さくガッツポーズする3人の女達であった。




「「「……(こっわ)」」」


 戦慄する男達であった。

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