36話



 ――緊急搬送された病院で集中治療室にぶち込まれた東条と葵獅の2人は、グルグルに包帯を巻かれ絶対安静を言いつけられる。


 3分後、脱走。


 その足でオアフ島直近の新大陸へと向かった。


 ――2時間後


「うん、やっぱこれが1番速ぇな。あ、オーイ!カモンカモン!」


 包帯を取った東条が肉の再生した手足をグッパグッパと動かし、数機のヘリに手を振る。


「獣化系はこういう時に便利だ。ケホっ」


 包帯を取った葵獅が、タテガミに付いた血を振り払う。


 開けた2人の周囲に転がる夥しい数のモンスターの死体を見て、ヘリを運転する回収屋が目を見開き驚愕する。

 今や有名人である2人を前に、回収屋も大興奮。握手を求められる東条と葵獅。


 ……そんな中、


「……はぁ」


 溜息を吐く者が1人。


 看病人として無理矢理連れて来られた朧である。


 朧はムカついていた。とてもムカついていた。ムカついている朧は、笑顔の東条を見てもう1度溜息を吐く。

 いや、どう見ても看病とか必要ないだろこれ?何で俺がこんな貧乏くじを。そもそもあの怪我で何で外に出ようと思うんだ?

 原理は分かる。魔素を吸収して回復力を上げようって原理は。でもマサ脇腹からモツ出てたぞ?筒香さん松葉杖+両手使用不可だぞ?何で行こうと思えるんだ?


 ムカつく朧はムカつきながらヘリに乗り込む。

 俺に足りないのは、この圧倒的馬鹿さなのか?論理的思考を放棄した圧倒的馬鹿さなのか?

 ……正直さっきの戦闘で、俺はまたマサとの、クソ師匠との差を痛感させられた。何度シミュレートしても、俺が筒香さん以上のダメージをマサに与えることが出来ない。

 俺が日本で足踏みしている内に、このバカ師匠は更に力を研ぎ澄ませていた。ノエルに新しい力を貰ったからとか、キモい骨と融合したからとか、俺が言いたいのはそういうことじゃねぇ。それは一過程であって強さの理由じゃねぇ。

 俺は、……そんな言い訳にすがりたくねぇ。


「……クソっ(ボソ)」


「でもやっぱ流石に重症すぎたなぁ、傷が塞がりきらねぇわ。また血出てきた」


「俺も数日は安静にしておく。しかしお前にはノエルがいるだろう?回復薬貰わんのか?」


「あ〜……、ノエルさんね」


 東条がポリポリと頬を掻く。


「実はつい昨日、笠羅祇さんとの試合で微妙に死にかけてさ」


「ほぉ」「……」


「そん時、遊びでもう無茶はしないって約束したばっかなんだよね……」


「フハハハっ。なるほど、それを翌日に破るとは。ひどい男だ」


「お前の所為な⁉︎……病院じゃ目も合わせてくれなかったよ、」


「まぁそんなことより、」


「そんなこと⁉︎」


「笠羅祇殿との試合は見れないのか?録画とか、何かあるだろ?」


「っこいっつほんまッ」


 包帯で葵獅の首を絞める東条を、


「……」


 ムカつく朧はムカムカとムカつきながら睨む。

 ……強くなったと思っていた自分がバカらしく思えてくる。

 分かっていたことだろう?俺よりも強い奴なんてこの世に五万といる。筒香さん、笠羅祇とかいう侍、俺よりも強い奴らが、このエロ師匠に認められて高みに登ってゆく。


「……」


 ……てかボケ師匠とこのライオン、随分と仲良さそうだな?

 不能になった次は男色にでも目覚めたか?人間に媚び売って生きてくとこは流石猫科だな。見境ねぇマサとお似合いじゃねぇか。せいぜいケツの穴掘られねぇように気をつけな、ハッ。


「……ねぇ葵獅、何か朧氏の目が物凄く冷たいんだけど、俺何かしたかな?」


「……フッ、これはあれだ。……嫉妬というやつだ(ボソ)」


「は?」「あんれまぁ〜」


 朧の目が更に冷たくなり、最早その色は軽蔑に変わる。


「なんやぁ朧くぅん、寂しかったんかぁ〜可愛いとこあんじゃねぇのぉ〜」


「ウッザ。キモいんで触らないで下さい。そんなんだから女泣かせるんですよ」


「ッヒグゥ、ぅうっ」


「朧やめてやれ、今のこいつにその攻撃はクリティカルだ」


「チッ」


 白目を剥き痙攣する東条の脛をガスガスと蹴る朧を、葵獅は温かい目で見守るのだった。


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