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「っな……」
間一髪躱した東条は地面を滑りブレーキ、驚愕に目を見開く。
尻もちをついた報道陣が持つ、カメラのレンズのその先。
パラパラと落ちる砂煙と粉塵を切り裂き、1人の人間がクレーターを上がってくる。
「何でかなぁ何でかなぁ!何で受け止めてくれないのかなぁ⁉︎」
「――ッ、灰音⁉︎待てっ、落ち着」
「質問してるんだけどなぁ⁉︎」
「――けガッハっ⁉︎」
漆黒の盾をブチ抜き、灰音の回し蹴りが東条を真横にカッ飛ばす。
壁面に衝突しめり込んだ東条は、すぐさま頭を引っ込めでんぐり返し。そのすぐ上を飛び蹴りが通過、またもクレーターが出来上がる。
「何で避けるんだよ桐将君⁉︎もしかして僕のこと嫌いになっちゃったの⁉︎ねぇ!ねぇ⁉︎」
「そ、んなわけ、ないだろぅお⁉︎」
東条が首を逸らすと同時に、アッパーがビュガッ‼︎、と凡そ拳の出せる筈のない音を出して眼前を通過してゆく。
「なら何で逃げるのさ⁉︎」
「殴ってくるからだよ⁉︎」
「逃げるからじゃん‼︎」
灰音の拳が地面に突き立ち、小規模な地震が起こる。
東条は必死に弁明を図りながら、怒りの鉄槌を躱し続ける。
1年前に比べて技のキレが段違いだっ、流石灰音!いや今はそんなことどうでもいい‼︎この状況を打開できる言い訳を!何か⁉︎
「仕方なかったんだ‼︎あの時はすぐにでも、ノエルを日本から離してやりたかった‼︎」
「一報くらい入れられたよねぇ⁉︎抱いたまま放置って、僕だって傷つくんだぞ⁉︎」
ちくしょうぐうの音も出ねぇ⁉︎
「それはすまんグワ⁉︎」
灰音はガードに出してきた東条の腕を振り払い、軸足を踏み込み、接近と同時に胸ぐらと腕を掴む。
この体勢は、マズ――。
東条がそのスピードに瞠目した時、既に天地は逆転していた。
「――怒ってるんだよ、僕はッ‼︎」
全体重、全魔力、力の流れを完全に伝えた一本背負いが、穴だらけの山頂に特大のクレーターを穿った。
「ハァっ、ハァっ、ハァっ、っ」
「はぁ……はぁっゲホッ、ガハッ……はぁ、はぁ、」
灰音は血を吐き笑う東条に跨り、荒い息を吐く。
「何で、黒いので守らなかったのさ」
「お前が避けるなって言ったんだろ、げほっ、」
東条は自分を見下ろす泣きそうな瞳を見つめ、微笑む。
少し汚れた灰色のウルフヘア。鋭い目尻。小麦色の肌。透明感のあるクールな声音。
……あぁ、懐かしいな。間違いない。
……俺が好きになった女だ。
「……久しぶり、灰音」
「っ、ぅん!」
「っ⁉︎」
灰音は跨ったまま東条の胸ぐらを掴み、強引にキスをする。
口に広がる、ファーストキスと同じ味。
血の味を確かめ、舌を絡め、自分が認めたオスを、本能のままに貪る。
「ぷはっ」「んはっ⁉︎」
その甘美さはまさに天上。
頬を紅潮させ、唾液を舐めとる灰音。
「おぃい⁉︎」
の腰を支え、勢い良く起き上がる東条は、メチャクチャ慌てながら指を指す。
「生‼︎生‼︎」
「な、生ってそんないきなり、……でもそっか、桐将君のなら、いいよ。……私にちょうだい」
ぽっ♡じゃないんだよバカ⁉︎東条は灰音の頭を真横に向ける。
「何飛躍してんだこのド変態が⁉︎絶賛生中継中なんだよ‼︎」
2人の視線の先には何台もの黒いレンズが、この瞬間を逃してなるものか!と構えられている。
「…………わー」
灰音は周りを見渡し、
「……ヤバ」
「激ヤバだよ⁉︎」
テヘっ、と可愛く笑った。
――瞬間、山頂にまたもや何かが急落下。爆音と共に土煙を上げる。
「今度は何⁉︎」
東条は立ち上がり、濛々と昇る砂煙に怒鳴りつける。
もう既に色々と脳の処理が追いついていないのだ。これ以上は――
……その時、周囲の温度が一気に下がった。ように感じた。
灰音以外、その場にいた全員の肌に鳥肌が走る。それ程の、底冷えする程の、
怒気。
「…………今度は何、やて?」
「あ、ぃぇ」
静まる晴天の中。咲き誇る様に、黄戸菊 紗命は笑った。
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