21話
「……手加減出来た。マサに褒めてもらお」
地面から這い出て人型に戻ったノエルが、炎の中で彼女達を見る。
オリビア冷や汗を拭い、苦笑する。
「ディギン、ケルちゃんを安全な場所に。……これが手加減だって?冗談キツイよノエル?」
「まさか外すとは思はなかった。ケル凄い。褒めたげる」
「……ケルちゃんを狙ったわけじゃないのね」
「お前」
ノエルに指を指されたフロルが、ササっ、とオリビアの背中に隠れる。
「何でフロル狙うのさー、彼女何もしてないよー?」
「そうですわっ。私はなーんにもしてませんですわ!」
「してますですわ。嘘つくなですわ」
服に付いた火の粉を払い、ノエルは焦げた靴を履き捨て裸足になる。
「珍しい。ほぼ完璧な人型。ただの精霊じゃない。上位精霊?色々気になる」
ノエルは思い出す。
新大陸でも精霊という存在には会ったことがあった。通常あれらに決まった意志は無い。力もそれ程強くない。ふわふわ日向ぼっこしたりして過ごしてた。
しかしどういうわけか、あのフロルという女からはその精霊と同じ気配がする。
……あの形、漫画で見たことある。んー。
「あ、ドライアド!お前ドライアド?」
「は、はい、いかにも。私は、ドライアドという存在に受肉したようですわ。あと私の名はフロルでございますわ。お間違えなきよう」
「おお〜。ドライアド、ギリシャの大精霊、伝説がそのまま受肉してる?他にもいる?そういえば紗命水の塊殺したとか言ってた。……死体すら残さないとか、やっぱ紗命怖い。(ボソボソ)……おいドライアド」
「フロルですわ!」
「フロル」
「何ですの?」
「その下半身の花弁の中どうなってる?剥かせろ」
「何ですの⁉︎」
手をワキワキしながらとんでもないセクハラをぶん投げるノエルに抗議し、フロルは涙目でオリビアに抱きつく。
真っ赤になってワナワナするフロルをなでながら、オリビアは一瞬地面に目配せし、溜息を吐いて笑った。
「ちょっとノエルー、セクハラだよ?」
「……ん、分かた。それは後にする」
「後⁉︎」
冗談を仕舞ったノエルの蛇眼がフロルを睨む。
「ここ周辺に流れてる魔力、何かおかしい。ノエルに吸われるの拒んでる。反対にお前達に多く流れてく。領域レベルのバフ。……フロル、お前の仕業」
ノエルの推察に、オリビアが苦笑する。
「……あらら」
「……バレちゃってますわ」
『流石王と言ったところか』
『……ルージュ、準備は?』
『問題ない。が、あと1発だ。私の細胞が保たない』
『オッケ、とっといて』
隠していたテレパシーで会話した後、フロルが後ろに引き、オリビアとルージュが1歩前に出る。
「ん?オリビア戦う?」
「なーに言ってんのノエル?もしかして私のことナメてる?」
このまま1対1に持ち込まれたら勝ち目が無い。それは先の攻防でオリビアも理解した。
まさかノエルがあそこまでの近接戦闘術を体得しているとは、てっきり近接はキリマサの領分かと思っていたのに。
つくづくこのバディはイカれている。
「フフっ。……ピーちゃん」
「ビィィッ」
オリビアが突き出した腕の上で、カタカタと紫色のサソリが震え出す。
「『
瞬間ピーちゃんの体積が数10倍に膨れ上がり、ガバッと外骨格が割れる。
バチンッ、バチンッ、とオリビアの全身に巻き付き武装してゆく生体防具。
顔面を覆い最後、紫のフルアーマーが全身から――シュゥゥウッ、と血霧を吐いた。
――ピーちゃん cell:Beaster『
「おし皆、ケルちゃんのためにも、最初からフルスロットルで行くよ。ピーちゃん、1ℓ」
「ビィィッ」「オリビア⁉︎」
『……死ぬぞ、オリビア・ハルモニア』
「こんな機会、2度と来ない。……試したいんだよ、私の全力っ」
ノエルの表情に初めて浮かぶ、警戒の色。
赤く染まってゆくアーマーの下で、オリビアは目を見開き頬を染める。
そんな彼女を見て、ルージュも小さく笑った。
『フロル、やれ』
「っ、もうっ!ノエル様っ!」
「ん?」
「私怒っております!ぶっ飛ばしちゃいますからね!」
「来い」
「『
途端大地から緑色の蒸気のような物が立ち昇り始め、オリビアとルージュに纏わりつく。
可視化される程に濃密な、他者の干渉を許さない魔素の本流。
刹那、ノエルは目を見開いた。
――眼前に迫る、赤く光る拳に。
オリビアの振り抜いたガントレットが、十字に組んだノエルの腕にめり込み、
「――ッッウラァッ‼︎」
「――ッ」
瞬間ソニックブームが周囲の炎を吹き飛ばす。小さな身体が爆速でぶっ飛び瓦礫に衝突。濛々と粉塵を上げた。
これがオリビア・ハルモニア。これがアメリカ。
これが、災害の主。
「畳み掛けろォッ‼︎」
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