18話



「……フシュゥルルル」


 前脚を下ろした火龍は、ゆっくりとオリビアに近づき火の粉をチラつかせる。


『聞いていないぞ、オリビア・ハルモニア』


 金色の大きな瞳がオリビアを映す。


「そう怒らないでよルージュ、どう?ビックリしたでしょ!」


『……ビックリでは済まない。あれは『王』だ、分かっているのか?』


「王?」


『私達の外に生きる神だ。私は現状に満足している。神殺しに興味は無い』


「グルルゥッ!」「ガルァア」「ゥルルルッ」


『黙れ犬、食い殺すぞ』


「「「キャゥン……」」」


 牙の間から火の粉を吹くルージュ。


 オリビアは知らない知識に少し引っかかるも、後で代表を詰めてみよう、と切り替えた。


「ほらルージュ、前にお城欲しいって言ってたじゃん?」


「?」


「あの子に勝ったら、縄張りにデッカいお城建ててあげる!」


「ッ⁉︎……フシュゥゥ」


 鱗を逆立たせるルージュがオリビアを睨みつけ、……顔を逸らす。


『……二言はないぞ、オリビア・ハルモニア』


「もち!」


『……屋根は赤にしろ。外壁は白だ』


「アハハっ、オッケオッケ〜」


 2人のやりとりにニコニコと微笑むドライアドのフロルが、にゅ〜、とルージュの顔を覗き込む。


「良かったですね、ルージュ様?」


『黙れフロル、貴様も準備しろ』


「勿論ですわ」


 次いでルージュはバリバリと瓦礫を食っているシュタルワームの首根っこを掴み、持ち上げる。


『貴様もだディギン。敵を見ろ』


「キシュァ⁉︎」


『違う、飯じゃない、敵だ』


 ケルベロスのケルちゃんに跨ったオリビアは、あはは、と苦笑しながら観客席を見る。


「ごめんねノエル〜!」


「済んだ?」


「うん!お待たせ〜!」


 東条の隣に座りポップコーンを摘んでいたノエルが、んしょ、と立ち上がる。


 東条はこちらを見るモンスター達を目に、乾いた笑みを浮かべた。


「こりゃまた、とんでもねぇのが出てきたな」


「ん」


「どうだノエル、気合の程は?」


「充分」


 力こぶを作るも華奢な彼女の腕に、東条は笑い背中を叩いた。


「おし!んじゃブチのめして来い!」


「おしゃ!」


 軽くジャンプしたノエルは再び瓦礫の上に着地し、ルージュと真っ向から見つめ合う。


『すまないな。貴様に興味はなかったが、……事情が変わった』


「人好き?」


『何?』


「人は好き?」


 ノエルの質問に、ルージュは小さく唸る。



『……嫌いではない』


「ん。ノエルも」



 互いにニヤリと笑い合った。


 瞬間、ガバッと開いたルージュの口から爆炎が噴き出す。

 軌道直線上をコーラを飲んでいた東条ごと呑み込み、吹き飛ばした。

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