17話 皆友達!


 そして1週間後。

 ここハワイでも、至る所で祭りの準備が始まっていた。


 飾り付けられた街並みのお昼時、いつもなら騒がしい市内はしかし、今日この時だけは静寂に包まれていた。


 興奮、期待、驚愕。昼食を食べながら、友達と酒を片手に、自宅で、公園に設置されたスクリーンを、モニターを前に、人々は固唾を飲む。


 ――そこに映し出される、相対するノエルとオリビアを見て。


 リーグ予選最終試合。国民的人気を誇るオリビアの初陣は、ハワイ州全域で生放送されることとなった。


 州に限定することで、他州の人間は視聴権を買わないと見ることすら出来ないという何とも悪どい手法。


 しかしこれは、どこの州もやっていることなのだ。

 このフェスは言わば、州対抗のアメリカ最強決定戦。まぁ、バチバチなのである。



「どっちも頑張れー」


 ダイヤモンドヘッド頂上。東条は自分1人しかいない観客席にドッカリと座り、ポップコーンとコーラを摘む。

 何やら運営によると、オリビアの戦いは周囲の危害を考慮しないため、観客を入れられないらしい。うん、特別感があって気分が良い。



「……」


 ノエルは身体を伸ばしながら、東条の応援に不満げに口を尖らせる。


 オリビアもストレッチしながら苦笑する。


「アハハっ。キリマサ、女心が分かってないね〜」


「……ホント。ノエルは苦労してる」


「心中お察しするよっ、と」


「……さて、」とオリビアはポケットから小指サイズの骨笛を取り出す。


「準備は良いかな?」


「ん」


 ここまで来ても脱力具合は相変わらず。オリビアは自然体を一切崩さないノエルを笑い、


「……では、お見せしよう」


 笛を唇に当てがった。


 瞬間ノエルの耳がピクリと反応する。

 空気の抜けるような笛の音とは裏腹に、モンスターにしか聞こえない魔力の乗った高音。


 風に消え、雲を抜け、海に溶ける高音。


「……」


 ……何か、来る。


 ノエルが天を仰いだ。


 と同時に特大の炎球が遠方の積乱雲に穴を開け吹き飛ばし、爆音を上げ山頂へと着弾した。電磁バリアが一撃で粉壊し、観客席の半分が爆砕、降りしきる瓦礫、濛々と立ち上る土煙の中、


 金色の瞳が縦に割れる。


 太陽を背に輝く深紅の鱗。

 15mを超える体躯。

 刺々しく恐ろしいフォルム。

 頭部から突き出る赤熱した2本の大黒角。



「――ッギャルァアアアッッ‼︎‼︎」



 大翼を広げ立ち上がり、天に吠えるその威容はまさに覇者。

 龍種、またの名をドラゴン。


 現生態系の頂に君臨する、紛れもない頂点捕食者である。


 そして山を駆け、現れるのは3つ首の番犬、ケルベロス。

 遠吠えを響かせ、ケルベロスはオリビアの側に着地する。


 直後観客席をブチ抜き現れる、30mの長大な鋼の身体。

 その顔には目もなく鼻もなく、ただぽっかりと開いた口に螺旋型の牙が生えるだけ。


「キシュシュシュシュッ」


 種名シュタルワーム。

 オリビアに捕獲されるまで、1匹でアメリカ全土の農作物に甚大な被害を出した化物である。


 瓦礫をバリバリと食べるワームに苦笑するオリビアの横、地面が薄緑色に発光し、大きな蕾が生える。


 開花と共に中から現れるのは、半人半花の美しき大精霊、ドライアド。


「ふふっ、ごきげんようオリビア」


「おはようフロル!今日も綺麗じゃ〜ん」


「ふふふっ、ありがとうございますオリビア。ドレスの色を変えてみましたの」


 そして最後に、


「ピー!」


 オリビアの肩で小さなサソリが両手を上げる。



「……」


「……約束だったからね、」


 瓦礫の上に立ち髪を靡かせるノエルを目に、オリビアは大きく手を広げる。




「これが今の私の『最強』。――ッ楽しもうねっ、ノエル‼︎」




 挑戦的な笑みを浮かべるオリビアと共に、化物共の咆哮が山を揺らした。




 人は彼女をこう呼ぶ


『災害の主』オリビア・ハルモニア


 と。

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