2章〜The beginning of the festival〜

10話



 どこからともなく現れたジャパニーズゴリラとバリカワロリータによって下位リーグが壊滅した、


 その夜。


 とある高級クラブ内では、街の喧騒すら蹴散らす程のお祭り騒ぎが起きていた。


 ミラーボールにカラフルなレーザーが乱反射し、爆音で流れるEDMに合わせ、扇情的な服装を身に纏った美女達が踊り、傷だらけのハンター達が楽しそうにステップを踏む。


 酒を片手に手を掲げ、床を鳴らしてハメ外す。

 酒池肉林の大人の世界が、そこには広がっていた。


 そしてそんな光景を、上階のソファ席から見下す者が2人。


「うまっ、What's this?」


「フォアグラのキャビア乗せ、トリュフを添えて。でございます」


「だははっ、バカみてぇな料理だな⁉︎ほれ、食ってみ」


「ん。……しょっぱ」


「うまくね?」


「バカ舌」


 ギラギラのサングラスにアクセサリー、服を身に纏い、両手を美女の肩に回し、ドッカリとソファに座る男、東条。


 ダイヤのティアラとギラギラのサングラスを付け、スリッドの入ったドレスを身に纏い、美女の膝の上に座りその巨乳を枕にくつろぐロリ、ノエル。


 王の如く君臨する2人こそが、この祭りを催した張本人である。


「You are beautiful,これあげる」


「あんっ♡」


 東条がクラブ内通貨を美女の胸に挟む。


「え〜ずる〜い」


「あぁ?しゃ〜ね〜なぁ」


「キリマサ大好き〜!」


「っでへへへ」


 美女の胸に抱きしめられデレデレする東条を、ノエルは呆れて鼻で笑う。


「Hey黒服、シャンパン」


「はい、こちらオレンジジュースでございます」


「ん」


 ソフトドリンクという名のシャンパンをストローで吸いながら、彼女は下階で踊る人間達を眺める。オリビアがステージ上でヘッドバンキングしている。


 下位リーグを壊滅させた後、普通のクラブとやらがどんな物なのか見てみたくなったノエルは、試しに高級クラブを貸し切ってぶっ飛ばしたハンター達を呼んでみることにしたのだ。


 それで分かったことは、クラブはうるさい、酒と香水臭い、目がチカチカする。の3つ。別に楽しくはなかった。というのが彼女の結論だ。


 ノエルは巨乳に頭を預け、ズコココ、とストローを啜る。


「マサー飽きたー」


「おいおい、お前が来たいって言ったんだろ?俺だって好きでこんな場所にいるんじゃねぇんだぞ?」


「……」


 パフパフしながら戯言をほざく東条。


 とそんな時、2人の前に黒服がひざまずく。


「Excuse me, please」


「んー?」「どした?」


「とある老爺が御2人に会わせて欲しいと。自分は御2人の知り合いだと言って聞かないのです。いかがいたしますか?」


「爺さんが?何で?」


「知ぁない」


「入口で預かりましたが、刀を所持していました」


「こわ⁉︎」


「断りましょうか?」


 東条は少し考え、手を振る。


「いーよ、面白そうだし呼んで」


「畏まりました」


 そして現れる、サングラスアロハシャツ短パンの翁。


 ニヤリと笑う彼を見た瞬間、ノエルと東条は目を見開いた。


「笠羅祇さん⁉︎」


「おうおう、久しぶりよ!元気してたか東条⁉︎それにノエル嬢も、見ねぇ内に一段と綺麗になって!」


「ん、お久」


 最後に会ったのは調査員試験の時だったか。本当に久方ぶりの予期せぬ邂逅に、東条とノエルもテンションが上がる。


「Sorry ladies, Can I sit here?」


 美女達を退かし勝手にウイスキーを注いだ笠羅祇と乾杯し、東条は笑う。


「笠羅祇さん何でハワイにいるんすか?」


「梟躔の命令だ。外国の情勢を調査するために、一足早く新大陸を渡ったのさ」


「いつ?」


「んー?いつだったか、試験終わってすぐじゃねぇか?てかそんなことより!」


 笠羅祇が興奮したようにグラスを置く。


「お前さんらの活躍見たぞ!いやはや、国相手によくもまぁあそこまでやったもんだ‼︎ダハハハハ!」


「活躍って、俺ら追われる側だったんすけど、」


「その上でしっかりノエル嬢を守ったじゃねぇか!お前さんはやる奴だと思ってたが、想像以上だった!漢見せてもらったぜ東条!」


「……悪い気はしないっすね」


「その格好見てだいぶ見損なったけどな」と茶化す笠羅祇は、次いでノエルに微笑む。


「ノエル嬢も、大変だったろうに……よぉ頑張った」


「ん。良い思い出」


「ダハハっ、そう言えるならもう大丈夫さな!……美人さんになった理由も頷けるってもんよ。なぁ?」


「……ぽっ」


 両手でほっぺたを押さえるノエルに、笠羅祇は爆笑して東条をグラスで指す。


「こんの色男めが!」


「ちょっと恥ずいんでやめてもらえます?」


「……ぽっ」


「ノエルさん?」


 微笑ましい2人のやり取り。

 初めて特区内で出会った時と何も変わらぬ、否、それ以上に深い絆で結ばれた2人を見つめ、笠羅祇は優しく、嬉しそうに笑いグラスを呷った。


「それじゃ、ジジイはここらで退散するかね」


「え、もう行くんすか?」


「ん。もっと話そ」


「おぅおぅ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。あんまジジイ泣かせんじゃねぇよ」


 サングラスを掛け直す笠羅祇が、去り際にニヤリと笑う。


「どうせまたすぐ会える。そん時飽きるまで?」


「また?」


「じゃあなぁ2人共!顔見れて嬉しかったぜ!」


「あ、はい、また!」「んー」



 2人と別れた笠羅祇は黒服から刀を受け取り、待たせていた部下2人と合流する。


「もう宜しいので?」


「ああ。……俺ぁ、対話はコイツでする派よ」


 ベルトに差した刀を叩く笠羅祇の顔は、心底楽しそうに、そして嬉しそうに、獰猛に歪んでいた。


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