11話



 ――翌々日。


 晴れてアッパーランクへと昇格した2人に、次の対戦相手が決まったと連絡が入った。


 時刻は夜、迎えの車に揺られながら、2人は外の景色を眺める。


「次もクラブみたいなとこなんかね?」


「うるさいからや」


 そうこうしている内に車は段々と街を離れ、山道へと差し掛かる。その既視感のある光景に2人は首を傾げ、そしてようやく気づく。


「あれ?……ここダイヤモンドヘッドじゃね?」


 正真正銘、そこは初日に来たハワイの観光名所であった。


 車が脇道に逸れて数分、2人の目の前で岩壁が重々しい音を立て動き出し、内部へと続くトンネルが姿を見せる。


「マジか」「おー」


 等間隔の照明を抜けた先に広がる、近代的な重機械の数々。


 まさか山の中が、こんな風に改造されてるとは思わなかった。

 口を開け呆ける2人に、運転手がクス、と笑う。


「驚きましたか?」


「そりゃまぁ……」


「現組合の代表がですね、『死んでる山なんて残して何になる!改造しちまえ!』と、半ば強引に造り変えてしまったんですよ」


「……何て?」


「組合の代表が勝手に造ったって」


「やば」


 なるほど道理で山頂の魔素が他より濃かったわけだ。日夜バチバチに戦闘が起きてりゃ、そりゃああなるわ。東条は納得し背もたれに寄りかかる。


「流石に逮捕されないんですか?」


「国内の自然を壊して建築するよりは良いか、と渋々黙認されたそうです」


「あ〜」


 ……あ〜なのか?だいぶイカれたことをしてると思うが。

 そしてそのイカれた代表とやらが、何やら自分を気にしているらしいのだ。段々と怖くなってきた東条の口がへの字に曲がってゆく。


 車庫の1つに入った車のドアが開き、外で待機していた黒服が頭を下げる。


「それではMr.東条、控室へご案内します」


「ああはい」


「ノエルは?」


「本日Miss.ノエルの試合はありませんので、観覧席へご案内致します」


「ん。じゃあマサバイバイ」


「お〜う」


 東条はノエルと別れ、控室の扉を潜る。既に中にいた数人の参加者の目が、一斉に彼へ向いた。

 皆一様に汗を拭き怪我を治療しているため、恐らく試合終わりなのだろう。


「ではすぐにお呼びしますので、こちらで準備をしてお待ちしてください」


「うぃ」


 では、と去ってゆく黒服を横目に、東条は自分の名前が書かれたロッカーを開け着替える。


 途中、参加者の数人が東条の肢体を見て口笛を吹いた。


「すっげ」「噂に聞いてるぜ、あんたが東条さんだろ?」


「んー?おう」


「ロウワーの奴ら全員ぶっ飛ばすとか、中々イカれてんじゃねぇの!ハハハっ」


「ギルド行った時は驚いたぜ?天井抜けてんだもんよ!」


 東条も苦笑する。


「すまねぇ、ありゃ不可抗力だ」


「ハッハッ、別に良いさ。んなことより次の試合、俺達はあんたを応援してんだ」


「?俺の対戦相手知ってんの?」


 男が口に手を添え、小声で囁く。


「ここ来る時チラッと見えちまったんだよ。あの鬼人が、俺達とは反対の控室に入って行くの」


「デーモンヒューマン?誰だそりゃ」


「知らねぇのか⁉︎あいつはGS1人を殺した後、物足りねぇとか吐かしてギルドに喧嘩売ったんだ。そんで次の試合でG1の5人vs1の試合を組まされた」


「ギルドと喧嘩で5対1?負けたのか?」


「……全員それを願ってたさ。だけど結果は真逆。……あいつは5vs1の無理試合を、全員斬り殺して終わらせやがった⁉︎」


「殺しちゃったんか。へ〜、酷い奴もいたもんだ」


「事故ってことになってるが、ありゃ絶対にわざとだっ」


 ピッチリとしたトップウェアを着て、動きやすいアンダーウェアに履き替えた東条は、ランニングシューズの靴紐を結びながら相槌を打つ。


「あいつが逆の控室に行ったってことは、こっちの誰かと戦うってことだ。悔しいがこの中に、あんな化物に勝てる奴はいねぇ。……1人を除いてな」


 男が東条の背中を叩く。


「アメリカのプライドをジャパニーズに託すのは不服だが、この際そんなことも言ってられねぇ。……頼む、あの鬼人を倒してくれ」


「え、ああ、」


 何か熱い眼差しを向けられる東条は、


「……おけ!」


 とりあえず笑顔でサムズアップしとくことにした。



 数分後。名前を呼ばれ昇降機に乗った東条は、手を振る仲間?達に見送られ、山頂へと運ばれる。


 あれだけ怖がられてんだ。相当な相手なのかもしれない。心の中で少しばかりの期待に胸を膨らませる彼は、


 瞬間眩しくなる景色に目を窄める。


 到着した山頂をぐるりと囲む、沢山の投光器と観客達。


 夜の闇を吹き飛ばす光と歓声が、今宵の決闘者を迎えた。


 東条は前方に立つ対戦者を視界に入れ、苦笑する。


「……あんたかよ」



「ダハハっ!時間はたっぷりある。存分に語り合おうぜ?」



 新調した黒いスーツを羽織り、胸には幹部の証である真紅のポケットチーフが映える。



 ベルトに差された一振りの刀に手を預け、鬼人、笠羅祇は笑った。

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