9話



          §




 東条達のいるオアフ島から少し離れた場所に位置する、ハワイ最大の島、ハワイ島。



 風を伝い流れてくる市場の喧騒が、波間に揉まれ消えてゆく。


 天上に広がる真っ青なキャンパスを泳ぐ、数羽の白カモメ。


 耳を打つ潮騒に鼻歌を乗せながら、彼は今日も釣り糸を眺める。



 ハワイ島のとある海岸線。堤防の上に、1人の初老が座っていた。

 短パンとアロハシャツに、麦わら帽子とサングラスというラフな格好。


 だからこそ、そんな彼の傍らに置かれた一振りの刀が異様な程に目を引く。


 波に合わせて揺れるだけで、ピクリともしない浮き。しかし彼にとってはこの時間こそ楽しむべきものであり、尊ぶべきものなのだ。


 彼がいつも通り、忍耐と期待の狭間の時間を楽しんでいた。


 そんな時、


「旦那、お伝えしたいことが」


「……何だ?」


 彼の後ろに、買物袋を持ちワイシャツを羽織る2人の男が立った。

 市場から急いで来たのか、その額には若干汗が滲んでいる。


 男は袋からスマホを取り出し、彼に渡す。


「ギルドからか?」


「はい。東条さんとノエルさんが予選に参加しました」


「何ぃ⁉︎」


 勢いよくサングラスを外した彼、改め、


 ――Akaza Corporation――幹部・笠羅祇 十蔵


 はスマホをぶん取り、ギルド組合からのお知らせに目を通す。


 みるみる上がってゆく口角に、部下の2人も苦笑する。


「ダハハハハっ、ようやくか!待ってたぞ‼︎」


「いかがいたしますか?」


「この2人ぁ、アッパーに来たってことでいいのか?」


「はい。ロウワーが解体とありますので、今参加している人間は全員アッパーです」


「よぉし!なら今すぐギルド行くぞ!」


 釣具を片付ける笠羅祇が麦わら帽子を被り直す。


「ギルドへ?」


「直談判だ」



 刀を担いだ笠羅祇の胸で、血の様に赤いポケットチーフが揺れていた。





 ・参加者リスト――笠羅祇 十蔵 

  ハンターグレード:1 

  参加ランク:アッパー 

  24戦24勝 ※GSを1名、G1を5名殺害(事故)

 【その後対戦相手が悉く棄権。強制的にシード権を授与】



          §



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