第25話



 ――ホノルル警察署、取調室。


 マジックミラーを挟んだその奥では現在、前代未聞の事件を起こした凶悪犯が事情聴取を受けていた。



「……店舗を破壊し、公共の場で戦闘を行い、グレード1ハンター3人を半殺し。……ふぅ」


 報告書に目を通した警官は、その内容に眉間を揉む。


「……一応聞くが、なぜこんなことをした?」


 ノエルの翻訳を聞き、東条が頷く。


「お姉さんが絡まれてたんで助けました。3人に暴力を振るわれたんで、暴力で返しました。あとどうせ再犯するんで玉潰しました」

「I helped a sister who was being harassed by three men, and I just payed back for their violence. I also smashed their balls because they would reoffend anyway」


 ノエルの翻訳を聞き、警官は頷く。


「……I see.確かに、君を逮捕した後、あそこの店員とオーナーが必死に訴えてきた。君の言っていることが嘘だとは思わない。あの3人も前科があるしな。

 ……しかしだ、それは君が私刑を下して良い理由にはならない」


 睨む警官に、東条はシュンとした顔を作る。


「病院からの報告だが、彼らのうちまともに話せるのはリーダーの男だけだそうだ。その彼も戦闘に大事な尾を切られ、身体のバランスを保てないらしい。

 そして1人は脳に大きなダメージを受け未だ昏睡状態。

 もう1人は腕2本の欠損に、脊髄が粉砕され一生首から下を動かせないらしい。

 全員今後ハンター業を続けるのは不可能だ。あと玉も無い。

 ……これを聞いてどう思う?」


 ノエルの翻訳に、東条はあちゃーと口を開ける。


「……残念です。可哀想なことをしました」


「悪いことをした自覚があると?」


「?いえ、可哀想だとは思いますが、悪いとは思いませんね」


「……君は今日、将来有望な3人の若者を、実質的に殺したんだ。その点について何も思わないのか?」


「あれがいることより、いなくなった時のメリットの方が大きいと思いますが、」


「というと?」


「少なくとも、1人の美女が救われました」


「……」


「害悪3つと宝石1つ、どちらを取るかなんて明白でしょう?それともアメリカの謳う自由とは、害悪が宝石を犯す事すら良しとするのでしょうか?」


「……宝石という点で言うならば、彼らも一ハンターという職の中では、立派な宝石だった思うが?」


「あれが?……あのぉ、警察から見ても、あれは本当にアメリカ内でトップレベルに強い人間なんすか?」


 話しの区切りに、警官は指で机を鳴らし腰を伸ばす。


「では本題に入ろうか、Kilimasa Tojo.……君は何者だ?」


「人です」


「それは分かる。いや、正直分からなくなっている」


「何でぇ?」


「グレード1を3人同時に相手して、無傷の上に、相手に精神を病む程のトラウマを与えるなんてことが、果たして可能なのか?」


「だからそれはアイツらが弱すぎたから」


「そこだ。君達は海から筏で現れたと聞いた。その時点で意味が分からないが、アメリカの戸籍にいない事は確か。加えてグレード1を弱いと言える実力を有している。

 いったいどこから来た?」


 ノエルは訳した後、東条と顔を見合わせる。


「これ、言っていいのか?」


「言わない方がいい気もする」


「だよな。適当に嘘つくか」


「ん」


「オールピーポーケイムフロムザシー」


「そういうことを聞いているんじゃない」


「無理だったみたい」


「……バカ?」


 ダメだこいつは、と東条を見限ったノエルが1人考えていた、


 その時、取調室の電話が鳴った。

 警官が「失礼」と立ち上がり、受話器を取る。


「どうした?…………は?誰が、……理由は?……チっ、分かった」


 眉間を揉みながら席に着いた警官に、ノエルが尋ねる。


「問題?」


「……釈放だそうだ」


「……」

「え、何、どしたの?」


 その報告にノエルは目を細め、周囲をチラリと警戒する。


「理由は?」


「俺達が聞きたいよ。何も言わず、何も聞かず、君達を釈放しろとのことだ」


「……誰からの命令?……センゴク?」


「?それが誰かは知らんが、恐らく……もっと上だろうな。……?握手か?」


 満足げに警官と握手するノエルに、東条は首をひねる。一瞬知った単語が出た気がしたが、気のせいだろう。


 東条は新しく入ってきた警官に手錠を外され驚く。


「え?どゆこと?」


「釈放だって」


「マジで?やった」


「手放しで喜んでいいことじゃない」


 ノエルは記念に手錠を貰いながら、監視カメラをチラ見する。


「……確実に見られてる(ボソ)」


「え、誰?大統領?(ボソ)」


「それに近い権力(ボソ)」


 しゃがんで何やらボソボソ話す彼らを、警官達が不審がる。


「やっぱり見られてたのか(ボソ)」


「たぶんバレたのはマサが逮捕されたせい(ボソ)」


「草(ボソ)」


「……この際媚び売っとこ(ボソ)」


「賛成だ。長い物にはぐるぐる巻きってな(ボソ)」


 ノエルの提案に東条も頷く。


 2人は数ゴニョゴニョした後、


「「せーの(ボソ)」」


 同時に立ち上がり、



「「「「「――っ⁉︎」」」」」



 監視カメラに向かって、全力満面の笑みを浮かべた。

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