第23話
――オレンジ色に染まるサンセットビーチ。
騒ぎ遊んでいた人達も、パラパラと帰路に着く。
お姉さんは扉に付いた札をクローズにし、いつもよりだいぶ早い時間に店を閉めた。
タオルで汗を拭ったオーナーが、椅子にダラリと全体重を預ける。
「ダハーっ、お前らgood jobだ」
「グッジョーブ」「グジョー」
「……」
東条とノエルは勝手にドリンクサーバーからジュースを出し、「「プハー」」と喉を潤す。
オーナーもそんな彼らを笑って見逃し、レジから金を取り彼らに差し出す。
「ほら、お前らの食った分抜いたバイト代だ。受け取れ」
「わーい」「え、金くれるんすか⁉︎サンクスサンクス!」
「ハッ、どんだけ金に困ってたんだよ?」
2人の喜びように苦笑するオーナー。
「ハンターってのは思ったより儲からねぇのか?」
「That.そのハンターについて聞きたかった」
そんなオーナーに、ノエルが指を差す。今日何度も聞いた単語。ずっと気になっていたのだ。
「ハンターって何?」
「あ?嬢ちゃんは分かるが、キリマサお前ハンターじゃねぇのか?」
「ん?ハンター?」
キョトンとしている東条に、オーナーとお姉さんも驚く。てっきりそっちの職の者かと思っていた。
「マサは今無職」
「……」「そ、そうか……。ハンターってのは、モンスターを狩って生計を立ててる奴らのことだ。魔法を使えたりスゲェ身体能力を持ってたり、cellとかいう特殊能力を使う奴もいる。まぁ人間を辞めた奴らのことだな」
(やっぱり、日本で言う調査員とほぼ同じ職種。……cellの呼称が定着してる。ノエルの秘密も知られてた。1年前日本と交流があったのはほぼ確実。アメリカにはノエルの秘密を知る存在がいる。つまり、王の1柱がいる可能性。んー)
「なぁなぁ、何話してんだ?」
ノエルは東条を無視して思考する。
「ハンターは主にどこで狩りしてる?新大陸?」
「ん?まぁそうだな。でもあそこのモンスターはスゲェ危険らしくてな、普段は森とか山とかのモンスターを駆除してるぞ。日常的に新大陸に行くのは、相当な実力者か頭のイカれた奴だけだ」
「なぁなぁ」
「日本との交流は?」
「日本?いや、聞かねぇな。てか外国がどうなってるかなんて知らんぞ。無事だと良いがよ」
「……(公にはされてない。なら動くのに支障はない。半日が経ってもノエル達への接触がないところを見るに、日本での出来事は国家上層部間での周知?なら、いや、警戒は必要)」
「……へ、ヘイビューティフルガール?レッツトーク」
「……No」
全員に相手にされず、東条は口をプルプルと震わせながらショボン、とソファに体育座りする。
ノエルはそんな彼に近づき、エプロンを引っ張った。
「……何だよ?」
「アメリカ、たぶん日本と繋がってる。もしかしたら近いうちに接触があるかも」
「あー、敵か味方かだな。仲良くするに越したことはねぇ」
「ノエルと同じ『王』がいるかも。アメリカがソイツと組んで世界の覇権を取りに行く気なら、他の『王』を殺しに来る可能性も充分ある」
東条はホケー、と口を開けて天井を見てから、
「……ま、心配すんな。お前を邪魔する奴ぁ全員殺してやる。気楽に行こうぜ?take it easyってやつだ」
ニヤリと笑った。
そんな彼に、ノエルも薄く笑う。……不思議だ、マサを前にすると、全ての不安がどうとでもない事に思えてしまうのだから。
「ん。信じてる」
「おう。任せろ」
と、その時だった。クローズにしていた筈の入口の鈴が鳴り、3人のガタイの良い男達が入ってくる。
「Oh, come on,閉店してんじゃねぇかよ?」
「お邪魔しま〜す」
「お、いるじゃんベイビーちゃん♪やほ〜」
「――ッ」「っ……」
我が物顔で席につく3人に、お姉さんは眉間に皺を寄せ、オーナーも苦い顔をする。
メニューを広げ大声で話す3人を、お姉さんは嫌悪を隠そうともせず睨みつける。
「看板の字読めなかった?」
「あーちょっと目に埃入っちまってな?」
「ブハッ」
「君に見惚れちゃってね」
「今日は閉店。帰って」
「ハハハ、んなつれないこと言うなよ?俺達の仲だろ?」
「あんたらみたいなクズと仲良くなったつもりはなッ、……」
「……下手に出てやってんだ、あんま粋がるなって」
立ち上がり髪の毛を逆立たせる男に、気丈に振る舞っていた彼女もたじろいでしまう。
瞳の奥の恐怖を見て、男は優越感に笑う。
「ヒュ〜」
「怖がらせちゃ可哀想でしょ〜」
「おいおい、ちょっと話そうとしただけだろ?」
汚く笑う3人を見かねたオーナーが、彼女を庇うように前に出る。
「今日は閉店だ。帰りな」
「あ?ジジイに用はねぇよ。怪我しねぇうちに引っ込みな」
「毎度毎度うちの従業員にちょっかいかけやがって、また組合呼ばれてぇかっ⁉︎――っぇほっゴホっ⁉︎」
「オーナー⁉︎アンタらっ」
いきなり腹を殴られたオーナーが膝をつき、お姉さんが駆け寄る。
「一般人への危害っ、アンタら終わりだね!」
「……はぁ、面倒くさ。だから無理矢理ヤっちまおうって言ったんだ」
「口止めも結構面倒なんだよ」
「……なぁ嬢ちゃん、」
オーナーを殴ったリーダー格の男が、彼女の顎を掴み無理矢理上げる。
「俺らはそれなりに実力のあるハンターだ。金も地位もある。その俺らが抱いてやるっつってんだ。何が不満だ?」
「っ、その何でも言いなりに出来ると思ってる、ゴミみたいな人格がだよ!ペッ」
「……」「ワ〜オ」「やっちゃった」
リーダー格の男が頬に吐かれた唾を拭い、呆れたように笑う。
「悪い子猫ちゃんだ。
「っ離せクソ!」「っぐぅ、待ってくれ」
無理矢理肩を組まれ引きずられてゆく彼女に、オーナーが痛む腹を押さえながら追い縋る。
圧倒的な力の前では全てが無力。
何でこんな人間が賞賛される?
たまたまモンスターを殺せる力を持ったというだけで、何でこんな人間が、
何でっ。
「ッ」
彼女の頬を一筋の涙が伝った、
……その時、
「……あ?」
リーダー格の腕が何者かに掴まれ、歩みが止まる。
振り向けば、そこには今まで静観していた男が立っていた。その後ろでは異様に白い幼女がオーナーの背中をさすっている。
何だこいつら?
「……新しい従業員か?何か用か?」
「ま、とりあえず離そうや」
「っ、ッ⁉︎」「っえ」
東条は男の腕をギギギギギ、と広げ、彼女を男から解放し抱き寄せる。
その異常な力に瞬驚愕した男は手を振り払い、1歩引いた。
「んだテメェ、……ハンターか?」
「見てたけど友達じゃなさそうだし、お姉さん泣いてるし、これもうアウトでしょ?Are you okay?」
「y,yes」
「……」「Japanese?日本人のハンターなんていたか?」「いや、俺は見たことない」
リーダー格の額にビキビキと青筋が浮かび、全身の毛が逆立つ。
意中の女を抱き寄せられ、恥を晒された上に無視された。感じたことのない屈辱にブチギレ、
「――ッ」
ノーモーションから拳を放つ。常人では反応することすら難しい腕を下げた状態、死角からの一撃。
直撃だ、死ねッ!
――瞬間、3人の眼前に1つずつ現れる漆黒の球体。
知覚、認識、疑問、
「っ?――」「ん?――」「ぁ?――」
刹那――インパクト。
「「「――ッ⁉︎⁉︎」
リーダー格の拳が届くよりも速く、3人同時に出入口の扉を破壊し場外にブッ飛んだ。
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