第22話



「……もう食えねぇ」


「……幸せ」


 10人前は優に超える料理をたいらげた2人は、ソファにもたれかかり満足げな表情を浮かべる。

 お腹を満たす多幸感。ここが天国か、きっとそうに違いない。


 そんな2人の元に、エプロンを付けた恰幅の良いおっさんが歩いてくる。


「Hey, you two」


「んぁ?」


「俺はここのオーナーだ。見させてもらったぜ」


「ん?オーナー?おおセンキュー!ユアハンバーガーイズソーデリシャス!」


「thanks。……あの量をよく食ったもんだ。あれだけ頼んで残したりしたら、叩き出してやろうと思ってたんだが」


「Be proud,ノエルは美味しいものは残さない」


「ハッハッハッ。そりゃ光栄だ。んじゃこれが請求書だ」


 トン、と机の上に置かれた紙を見て、東条とノエルはゆ〜っくり思い出す。



 ……あれ?俺ら金持ってたっけ?



「……ノエル、今回は任せる。今度返すわ」


「……いや、ノエルが返す。マサお願い」


「いやいやいや」


「いやいやいや」


「……What are you doing?」


「「(ビクッ)……」」


 目を逸らし汗をかく2人に、オーナーが「待て待て」と顔を引き攣らせる。


「……お前らまさか、金持ってないのか?」


「「……」」


 2人は青筋を浮かべるオーナーから目を逸らしつつ、ソファの上でそそくさと正座を作る。


 そして、


「「……sorry」」


 誠心誠意頭を下げた。


 後にも先にも、この2人に同時に頭を下げさせたのは彼だけであろう。



 ――それから数時間後。

 お昼のピークを迎えたハンバーガーショップ内は、過去最高の来店率に客で溢れかえっていた。


「あいよチーズ3番!アボカド2番!すぐ持ってけ!」


「オーケィっ!」


「Kilimasa! Table 5 bashing!」


「5バッシングオーケィっ!」


 料理の乗った2つのトレーをぶん投げ、客テーブルの上に漆黒を展開、衝撃を吸収し一瞬で配膳。

 同時にアルコールとダスターを掴み、汚れたテーブルを「オラオラオラ!」とピカピカにする。


 その間僅か2秒。

 エプロンを付けた東条の曲芸じみた動きに、店内からも拍手が起こる。


「あはは、あざっす。あざっす」


「Kilimasa!サボってんじゃねぇお客さんが待ってるぞ‼︎」


「ウッス!」


 再びキッチンに戻り数個のトレーを纏めて持ってゆく東条。


 ――とは別に、店の外で大きな看板をフリフリするノエル。


「ハンバーガー買えー。ハンバーガー買えー」


「キャー可愛い何この子⁉︎」「写真とろ〜」「力持ちだねー」「モデルさんかな?」「ヤバカワ」


 前代未聞の混雑の原因は、この突如出現した可愛すぎる売り子のせいである。


「その服オシャレ〜!どこで買ったの⁉︎」


「作った」


「ヤバ〜‼︎」


 ――キッチン内、オーナーとクールお姉さんがバタバタと料理を作りまくる。


「っポテト、シュリンプ、揚がりました」


「ドリンク入れて出してくれ!」


「はい。っ7番チー」


 完成したトレーをカウンターに置いた瞬間、


「7オーケィっ!」


「……」


 東条の手が伸びて来てトレーをぶん投げる。


「……オーナー、あの男本当に大丈夫ですか?」


「ん?よく働いてくれてるじゃねぇか!」


 お姉さんの顔が曇る。


「……オーナーも見たでしょ、あの目。あれって最近言われてる、cellってのに覚醒してる証拠でしょ?」


「……確かに奴らは粗暴でいけ好かねぇが、全員が全員そうってわけでもねぇ。現にあのJapaneseは良い奴だろ?」


「そうだけど……」


 お姉さんは眉間に皺を寄せ、最近来る獣みたいな奴らを思い出す。

 奴らはそこそこ有名なハンターらしく、我が者顔で店に居座る。本当に迷惑してるのに、現地警察も反抗されるのを恐れて強く言わないのだ。


 あの日本人の片目は、そいつらと同じ獣化系の特徴だ。獣化系はどいつも乱暴な奴ばかり、良い奴なわけがない。変な能力も使ってるし、普通じゃない。

 いざとなったら即ハンター組合にチクってやる。


「あ、おいノエル何してんだオメェ⁉︎」


「奢ってくれるって」


「ずりいぞ!」


「何やってんだ働けバカども‼︎」


 看板を放って勝手に奢られるノエルに、ダスターを投げつける東条、それを怒鳴るオーナー。そして笑いに包まれる店内。


「……はぁ」


 お姉さんはそんな光景から目を逸らし、黙々と料理を作るのだった。


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