第15話
場所は京都、一等地の住宅街。
そこには最近造られたばかりの、大きな一軒家が建っている。
学生は学校で授業を受け、大人は会社で働いている、そんな平日の真っ昼間。
その家の中で、3人の大人がジョッキを打ち合わせた。
「ク〜。いやはや、良い家ですね」
「ほっほっほ、事業は上手くいっているようじゃな?」
ジョッキを置いた加藤と若葉がニヤリと笑う。
その笑みを向けられた相手、佐藤は照れるように後頭部を掻いた。
「嬉しいことに、今のところは順調ですよ」
そう、ここは佐藤が新しく建てた家。新しい生活を始めるために造った、皆の家である。
加藤が寿司を口に運ぶ。
「この日本に、佐藤さんを超える長距離転移の能力者はいませんでしたからね。その佐藤さんが運送事業を立ち上げるとなったら、誰も勝てませんよ」
「いえいえ、ここまで会社を大きく出来たのは、偏に社員、他の転移使いの皆さんのおかげですよ。
私は長い距離を移動できますが、その分燃費が悪いです。私だけでは必要な場所に必要な分の物資を届けることは出来ませんから」
「……ほっほ、成功出来ているのは、その謙虚さも相まってじゃな」
「ははっ。ありがとうございます」
照れる佐藤。
の後ろから、1人の女性が扉を開け新しい瓶を持ってくる。
「これはこれは、すまんの。春野殿、あいや、今は佐藤殿だったの」
「ふふっ、はい。お酌いたしましょうか?」
「ほっほ、では一杯だけ頼もうかの」
ビールを注ぐ彼女の薬指には、煌めく結婚指輪が。
「佐藤御夫妻、改めてご結婚おめでとうございます」
「うむ、めでたい」
「「有難うございます」」
夫婦揃って微笑む佐藤夫妻。
「いつもすまんの。邪魔だったら言っとくれな?」
「ふふっ、邪魔だなんてそんな。次は是非娘のいる時にも来てください。会いたがっていましたから」
「それは嬉しいのぉ」
「加藤さんも、この前は水族館に招待していただいて有難うございました。娘達も喜んでいました」
「それは良かったです。またいつでもいらしてください。何なら貸し切りますよ」
「ふふっ、有難うございます。では私ははけますので、どうぞゆっくりしていって下さいね」
夫婦で微笑み合い、去ってゆく彼女。
だらしない顔をする佐藤を、2人はニマニマと見る。
「加藤殿、どうやら儂ら邪魔なようじゃぞ?」
「そうですね。今日はここらでお暇しましょうか?」
「ちょ、ちょっと、やめて下さいよ」
立ち上がった2人を佐藤が慌てて止める。
「しかしこんなに幸せそうな姿を見とると、こんなジジイでも羨ましくなるわい」
「若葉さんだって最近、訓練生の教官としてブイブイ言わせてるらしいじゃないですか」
「ブイブイはやめてくれ、小っ恥ずかしい。あのガキどもときたら、戦場を知らないくせに気だけデカくなりよる。
まぁそこが可愛いんじゃが」
「はっはっは、適任ですね」
デレる若葉を加藤が笑う。
「笑っておるが、主も大概じゃぞ?」
「そうですよ加藤さん、今度はジムをオープンしたらしいじゃないですか?いったいいくつ事業を展開するつもりですか」
逆に詰められ、加藤はいや〜と頭を掻く。
「一般のジムですと、もう足りないんですよ。負荷が」
「負荷が、」
「はい。ですので試しに調査員を主なターゲット層としたジムを作ってみようと思いまして。
モンスターを狩るだけじゃ味気ないですし、筋肉の成長効率も悪いですからね」
「……お前さんはいったい何を目指しとるんじゃ?」
はち切れんばかりの上腕二頭筋を見せる加藤の頭が、キラン、と光る。
「お2人もどうです?安くしときますよ?」
「ほっほ、そうじゃな、今度行ってやるわ。良かったらうちの訓練生にも勧めるかの」
「お!これは気合を入れないと」
「東京ですよね?私は通えないですかねぇ」
「何言ってるんですか、転移で来てくださいよ?」
「往復輸送料取りますけど良いですか?」
「「「ハッハッハ」」」
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