7章〜魔王と蛇神が去った後〜
第11話
――日本有史以来、最悪の失態。
後にそう囁かれることとなった、あの日の夕焼けの地獄絵図。
この世界の分岐点に、比較的友好な特記戦力を纏めて2人失い、彼の怒りを買って軍事力を文字通り大幅に削られた挙句、政府の信用と支持率が爆下がりして国が傾きかけたのだ。それも一夜で。
昨今のクリスマスは呪われている。そう日本国内で囁かれても仕方のないこと。
……それから更に1年と少し。
そんな国を裏から支え、立て直した男が1人。
初夏の暑さの中、彼らは緊張と興奮に唾を飲む。
「っ本番開始10秒前!9、8、7、」
「……気合いは?」
『充分ッ‼︎』
盛大なマッチポンプを仕組み、利益を全て掻っ攫い、国民を洗脳させ、国を乗っ取った張本人。
彼の裏の顔を知る者は、彼こそが魔王だと言う。
ステージ裏。オシャレな丸メガネをずらし、
「クフフ、かまして来い。……ハイネ」
彼、藜梟躔は星瞬く夜空を見上げ、笑った。
「3、2、1っ、ッハイネさん、入ります‼︎」
万を超えるサイリウムが光る野外フェス会場。
真っ暗だったステージがライトアップされ、オタク共のボルテージが跳ね上がる。しかしそこに彼女はいない。
疑問が浮かぶのも束の間、
一気に上空に向けられた照明に彼らの視線が吸い寄せられ、
「ッお待たせぇーーー‼︎‼︎‼︎」
着地と同時に噴き上がる火花、打ち上がる花火、爆音で流れ出すイントロ。
アイドル、ハイネの予想外のステージアップに、会場が揺れた。
アイドル衣装を揺らし、白いマイクを持った彼女が笑顔を弾けさせる。
「っ皆ー!今日は来てくれてありがとー‼︎楽しんでけよーー‼︎」
「「「「「「「「オオオオオオオッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」」」」」
――乱舞するハイビームと照明が夜を切り裂く。
――低音と高音、カッコいいと可愛いの渋滞。
――魔法を使ったド派手な演出。
「ネロー‼︎」
「――ッゴルァアアアアッッ‼︎‼︎」
「「「「「「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」」」」」
――火炎放射で空を真っ赤に染める黒龍にオタクの度肝が吹っ飛び、同時に始まるアップテンポな激しい曲に会場の熱気はピークに達した。
「……♪」
ステージの陰から、藜も指でリズムを弾きその姿を眺める。
「ノリノリやんボス」
そんな彼の後ろから、真狐がニヤニヤと近づく。
「そりゃあうちのアイドルが立派に歌って踊ってるんだぜ?嬉しいだろうよ?」
「あのボスが人の心を⁉︎」
「クフフ、ばぁか。お前もライブの総監督ご苦労さん。次も頼むぜ?」
「もう次の話かいな。まぁ楽しいからええけど。……どや今回の演出は?力作やで?」
「ああ、最高だよ」
2人はステージの上で尻尾振り腕を振り、彼女と一緒に踊る黒龍に笑う。
そんなインパクトの塊ですら、咲き誇る黒い百合の前では霞んでしまう。
汗を飛ばし、満開の笑顔を振り撒くハイネの姿は、まさしくアイドルであった。
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