日本
§
総理官邸の一室。
執務机に肘を付き、深いため息を吐く初老の男が1人。
「総理、会見が始まります」
「……あぁ、分かってる」
我道総理は眉間を揉みながら重い顔を上げる。
その額には深い皺が刻まれ、数ヶ月前よりだいぶ老けて見える。
我道は椅子にもたれ、ぐったりと天を仰ぐ。
「……なぁ、見美よ」
「……何でしょう?」
「俺は、間違っていたのか?」
秘書である見美はやつれた父を瞳に映し、悲しげに、しかしその感情を表には出さず口を開く。
「父さんは間違っていなかったわ。いずれは解決しなければいけない問題だったもの」
「……そうか、」
「でも、」
見美は目を瞑り、首を振る。
「そこまでのアプローチが、決定的に間違っていた」
「……」
「もっと話し合うべきだった。もっと彼女の抱えているモノを見るべきだった。……私達は、この新しい世界を軽視しすぎていた」
「、ああ……」
我道は大きく溜息を吐き、立ち上がる。
「……はは、そう難しい顔をするな。この問題が治るまでは意地でも続けるさ。後任に憂いは残したくない」
「……はぁ。そうですね。せめて今ある問題全部抱えて腹切ってください」
「お前なぁ、父に言う言葉じゃないだろ」
「父として見てほしいんですか?」
「ふっ、強かに育ったもんだ」
我道は軽く笑い、
「……苦労をかける」
「……任せてください」
切なげに微笑んだ。
§
とある報道局にて。
「離島での51人殺害。
山を爆破しての滋賀県竜王町大規模破壊。
度重なる病院への侵入と輸血パックの強奪。
巻き込まれた死傷者は既に500を回るとの報告も。どう見ますか?」
「そうですね。ようやく本性を見せた、というところでしょうか?」
「というと?」
「彼女はモンスターです。今までの全てが、人間社会に溶け込むためのブラフだったのでしょう。
輸血パックの強奪も、彼女自身が人間の血を求めている証拠でしょう?今でこそ病院を襲うだけ済んでいますが、そのうち悲惨なことになりますよ。
彼女の本性は残忍なモンスターです。それを匿っていた東条氏もですね」
「彼は洗脳されていたという証言もありますが?」
「どうでしょう?私には彼こそが主犯に見えますがね?
彼女を御せるのは東条氏だけです。何かを謀るには十分すぎる力でしょう。
それにですよ、彼らが殺人を犯したのは今回が初めてではないのですよ」
「え?」
「彼ら2人は山手線内にいた頃、池袋付近のコロニーで快人くんという男子高校生を1人、白金付近のコロニーでは大量虐殺を行っています。
それぞれの彼女さんと、逃げ延びた男性から証言を得ています」
「……そんな、」
「加え、これには私も驚きを隠せなかったのですが、我が局の社長である光明院氏のお孫さんも、彼に重傷を負わされたらしいです。
何でも他人の命より金銭を優先する東条氏に、お孫さんが怒りを抑えきれなくなったのだとか。
……その傷が祟ってか、お孫さんとその学友含め、例の突入作戦で帰らぬ人に……、
今一度ご冥福をお祈りします。……」
「はい。……」
「……はい。それでは次にいきましょうか、」
「そうですね、続きましては――
§
『ノエル吸血鬼説』『俺の血も吸ってくれ』『草』『おらキモオタ共どうした?声小さくなってんぞ?』『最近あいつらのファン見なくなったな』『裏でコソコソ鍵付き掲示板作って集まってるらしいぞ』『キッモw』『www』『虫かよw』『まぁ無理もないだろ』『それな。ノエルやばすぎ』『てか東条も大概だろ』『それな』『それな』『あいつら2人で何人殺してんだよ』『ガチ化物』『ハイネが奴の毒牙に掛からなくてよかった』『あぁハイネ』『我が癒し』『ww』『草』『オタクいたわw』『どうもキモオタです』『その潔さ嫌いじゃない』『(ガシっ)』『(ガシっ)』『他所でやれ』『捕まる目処立ってないの?』『地中進んでんだろ?無理だろ』『火炎放射器突っ込め』『w』『今になって犯罪歴出てくんのキモくていいな』『な、権力で押さえつけてたんだろうな』『虐殺はヤバい人じゃねぇ』『人じゃねぇだろ』『そうだった』『あのコロニーにいた奴らは人間じゃないっす!女の子閉じ込めて好き勝手やってたクズっす!2人はそんな人達を助けたんす!奴らもモンスターに責められて勝手に死んだだけっす!』『何だこいつw』『ww』『信者じゃね?』『信者乙』『何それどこの同人誌?』『エロ』『何それ俺もやりたい』『お巡りさんこいつです』『不謹慎ですよ』『まぁ表に出てないだけでそういう人達もいるだろうな』『こういう時女性って弱いよな』『男でよかった』『は?』『出たよ男尊女卑』『被害にあった人達の気持ちも考えれないわけ?』『キッショ』『頭に精子でも詰まってのかよ』『おいおい勘弁してくれ、お前らのせいでフェミ湧いてきたじゃねぇか』『他所でやれ』『邪魔』『お前が消えろ』『とりま東条とノエルは駆除ってことで』『賛成』『間違いない』
§
――紅葉も落ち、景色から色が抜け落ちる。
逆に吐息は白く染まり、チラホラと顔を出し始めたイルミネーションが、街を人工の輝きで染めてゆく。
空気が肌を刺し、街行く人がダウンを口元まで上げる。
太陽が早めに布団を被り、まだ眠いと目覚ましを止めるそんな季節。
厄災が舞い降りたあの日から、既に1年が経とうとしていた。
【後書き】
覚えてるかな、女集めてた白金コロニーで1人だけ危険察知して逃げ出してるの。
そして報道の大御所である光明院グループの収集に手間取ったって彦根が発言してるの。
つまり全部伏線ね。
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