大丈夫、ノエルが助ける

 


 ――三重から出た後、人けの無い山奥に姿を現したノエルは、手に持つ骨を地面に置き数歩引く。


 そして、


「……『ラグナ・ククルカン』」


 刹那、山が爆発した。


 猛烈な土砂が天を覆い、近くの町に隕石の如く降り注ぐ。


「……」


 陥没した土の上、4等分された骨を手に抱え、ノエルは再び土の中に姿を消した。




 ――「……?」


 深夜の病棟。

 物音を聞いた看護師が、恐る恐る懐中電灯を手に廊下を歩く。


「ちょっとぉ……やめてよぉ……」


 念のため近くの階段を上がり、長く静かな廊下を照らす。


「……気のせい、よね。……はぁ、」




 ペタ




「――っっ……」


 その時だった。引き返そうとした看護師の耳を、やけに生々しい音が打つ。



 ペタペタ



「ッふぅ、ふぅ、」



 ペタペタペタペタペタペタ



「フゥ、フゥっ、ぅうっ」


 明らかに自然の物では無い、人が素足で歩いているような音。

 間違いなく近づいている。間違いなく近づいている。


 ヤダヤダヤダやだやだっ。

「っ――ッ」


 意を決し振り向き、懐中電灯を向けたそこに立っていたのは、



「……」



「……ヒュっ――」


 点滅する常夜灯に照らされ、ぼんやりと輝く白髪と蛇眼を見て看護師がぶっ倒れる。


 ノエルはペタペタとその横を素通りし、手術室を開け放ち病衣を脱ぎ捨てる。


 手を洗い白衣を着て手袋をつけ、カプセルの中から東条を担ぎ上げ台に寝かせた。


 傍に殺菌、抗菌、消毒の回復薬に漬けた4つの骨を置き、cellを発動。

 東条の口元に鯨が昏倒するレベルの麻痺毒と睡眠毒を付与した草を張り付けた。

 同時にノエルの周囲に極細の蔓が現れ、キィイイイインッッと高速回転を始める。



「……っ」

「ッッッ⁉︎がぁアアアアアアアアア⁉︎」



 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッッ



 ビシャッ、とノエルの頬に血が飛ぶ。


 絶叫する東条を縛り付け、剥き出しの骨に穴を空け、カロンの骨と結合する。


 結局のところ、自分の力では肉は再生出来ても骨は再生出来ない。

 しかしカロンの骨は自由自在に形を変え、無限とも言える再生能力を有していた。もしこの骨にも同じ力があり、自分の力と合わせることが出来れば、宿主の部位欠損すら補えるかもしれない。


「っごめんマサっ、ごめんマサっ」


 両腕、両足、計4ヶ所の度し難い激痛。

 東条は強力な状態異常を、今までノエルの範囲攻撃に巻き込まれまくったせいで獲得してしまった耐性で殆どレジストしてしまい、強烈な痺れと眠気、それを超える痛みに白目を剥き血の泡を吹く。


 館内に響く叫び声に何事かと警備員が駆けつけ、ドアを開けると同時に吹っ飛ばされる。


 ノエルはクタクタになった東条をカプセルに戻し、背負い直してから、


「……おい女」

「ヒィっ」


 気絶から回復した看護師の髪を掴み引きずり起こす。


「輸血パックの場所、案内しろ」


「は、はひぃっ」


 看護師は保存場所まで案内した後2度目の気絶。


 ノエルはA型の輸血パックを全て掻き集め、窓から飛び降り夜の闇の中に消えた。

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