Monster

 


「――ッ何が起きた‼︎」


「あ、姉御!ノエル嬢が壁を破壊、脱走しました!」


「ぁあ⁉︎」


 監視室に入った紅が、モニターを掴み驚愕する。

 隔離病室の壁面には、ボッカリと丸い穴が口を開けていた。カプセルも無い。


「ッチィっ(血迷ったかノエル⁉︎)」


 今外に出ればどうなるか、分からない奴ではないだろうに。そもそもなぜこんな行動を。


「っ修繕は!ここがバレるのだけは阻止しろ!」


「既に土木班が修繕を開始しています!地上にノエルが出た形跡は無しっ、地中を進んでいる模様です!」


「地中だとっ?」


 流石大地の王、ということか。いや、感心などしている場合ではない。もしノエルが本気で逃走を図れば、最早捕まえることなど不可能だ。


「(いい加減出てこいボスっ、……それとも、これすら計画の内なのか?)ッ」


 ノエルの予期せぬ行動に髪をガシガシと掻いた紅は、慌てて走ってきた有栖やその他面々に説明を始めるのだった。



 ――三重県離島。

 厳重にバリケードが張られたその場所の中心に、1本の骨が突き立っている。


 言わずもがな、カロンの特殊部位、純白の背骨である。


 AMSCUの特記部隊、White-out作戦にも参加した30人が、現在その周囲を警戒していた。


「……あのバカ記者、近づくなって言ったのに、」


「マスコミなんてバカの集まりだろ。ほっとけ」


「あんまり大きい声で言わないでね。ただでさえ自衛隊は肩身狭いのに、また叩かれちゃう」


「言いたい奴には言わせとけ」


「警戒お疲れ、交代だ」


「了解」「おつ〜」


 仮眠から戻った隊員が見張り位置に腰を下ろす。


「総隊長の到着は?」


「明日には来るとよ」


「偉い人は皆謝罪に忙しいからな。仕方ないか」


「ノエルの行方も分からないし、東条殿の安否も不明、……日本どうなるんだよこれから」


「さぁな、ま、なるようになるだ


 ――その時だった。隊員達の魔力感知に何かが引っかかる。


 場所は、真下。


「「「「「――ッッ、⁉︎⁉︎」」」」」


 仮眠をしていた者も含め、30人は即座に飛び起き臨戦態勢をとる。


 同時に瓦礫を突き抜け飛び出したのは、月光に照らされ青白く輝く、半人半蛇の彼女であった。


 到達まで約1時間弱。

 東京から三重までの約500㎞。ノエルは地盤、岩盤、地下鉄、駅の全てを一直線でぶち抜いて来たのだ。


「『ノエル出現。応援を要請する』」


 病衣を纏い、背中に何かを背負うノエルの蛇眼が、暗闇の中ギョロッ、と光る。


「っなぜここに」


「……狙いは骨か。戦力強化にでも使う気か?」


「全隊員、骨を死守せ――




 ――瞬間、離島にいる全ての人間がうねる樹木に串刺しにされ、宙を舞った。




 自衛隊、記者、建設作業員、そこに区別はない。


 ノエルを知る者は、心のどこかでこう思っていた。


『彼女は人を殺さない』


 と。


 消えかける意識の中、隊員は理解する。自分が間違っていた。彼女は、ノエルは



 ――紛れもなくモンスターだ。





「……大丈夫、……マサはノエルが守る」



 今のノエルにとって、立ちはだかる物は全て敵。殲滅対象。


 骨を引き抜いた彼女は、再び地に潜り蓋をした。




 ――『死亡者数……51人(即死)』


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