拒否

 


 ――「……」


 有栖はパソコンを閉じ、唇を噛み締める。


 簡素だが清潔でそれなりに広い部屋の中、有栖はベッドから立ち上がり扉を開いて外に出た。


 目の前に広がるのは、白いタイルで囲まれた廊下。

 まるで病棟や研究室を思わせるその廊下を、白衣や黒スーツを着た人達が忙しなく歩き回っている。


「あ、あの、(ボソ)」


「?あ、おはようございます有栖さん。どうされました?」


「か、監視室に行きたいんですけど?(ボソ)」


「あぁ、畏まりました。ついて来て下さい」


 案内されるまま、長い廊下をくねくねと歩き、ある厳重に施錠された部屋にたどり着く。


 白衣の男がカードでロックを外すと、中では既に数人の顔見知り達が部屋の奥を悲しげな瞳で見つめていた。


 壁に寄りかかりモニターを見つめる朧。

 ガラス板に手をつき瞳を曇らせる灰音。

 黒スーツと白衣に指示を出す紅。

 目の下にクマを作り座る紗命と、その隣に寄り添う紫苑。

 目を瞑ったまま険しい顔で椅子に座る葵獅。


 ……そして、


「……桐、」「……」

「……東条君」「……」


 東条家の父母と、黄戸菊家の父母。


 有栖は近くにいた東条母にペコリと頭を下げる。


「ぉ、おはようございます。東条君のお母さん、お父さん(ボソ)」


「っおっとっと、……有栖ちゃんおはよう。ごめんなさいね」「……うむ」


 東条母はこぼれかけた涙を拭い、無理矢理笑顔を作る。


「……ど、どうですか?東条君の様子は(ボソ)」


「そうね。……変わらず、かな。まぁ、ここからじゃ直接見ることも出来ないんだけどね」


 この大部屋はマジックミラーの超強化ガラスで分断されている。片側は自分達のいる監視室。


 そしてもう片側が、


「……」


 有栖は部屋の奥、ガラス板の向こうを見つめる。


 滅茶苦茶に生え乱れ、完全にガラス板を覆い視界を遮る樹木、草、花。


 内カメラの映るモニターを見てようやく分かる。


 滅茶苦茶に生える草花の中央、ぽっかりと空いた場所にある機械の数々と、1つのカプセル。



 そしてそれに寄り添う1人のくたびれた幼女。



 ここは藜組東京本部、地下1㎞地点に造られた極秘施設。


 製造、医療、諜報、の全てをこなすことの出来る最新設備の宝庫と言えるこの場所で、



 ノエルは1週間の間、誰の侵入も許さず、ただ1人で東条の介護を行なっていた。

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