叛逆の使徒



 カロンは濛々と立ち昇る土煙から目を逸らし、呆れ溜息を吐く。


「……barbaria蛮族が……n.王であるなら奴隷の首輪くらいしっかりと握っておきなさい」


「……He is not a slaマサは奴隷じゃないve」


「?Is he a peペットか?t?」



「My bud相棒dy」



 ノーモーションで大地から10本の大樹が飛び出しうねり、カロンに突撃する。


「っコココ!……pathetic哀れ、」


 足場が吹き飛ぶ中、粉塵を突き抜け跳躍したカロンが風魔法を使い空中で停止、

 ワンドを振り巨大な火球を20発生み出し――掃射。矛先を向ける大樹を爆撃した。

 真っ赤に染まる眼前の景色、


「ッオオ⁉︎」


 を吹き飛ばし迫る大樹に、カロンは口角を上げ目を剥く。

 ワンドを振り上げ巨大なツララを地面から無尽に生やし大樹を縫い付け、そのまま氷棘の大波をノエルに向ける、


 が、


「!!」


 ノエルが片足で軽く地面を踏みつけると同時に、彼女の足元がまるで水の様に大きく波打った。


 うねる氷棘の波と大地の津波が衝突。拮抗何それ美味しいの?鋭利な輝きをガラス細工の如く蹴散らし、大地そのものがカロンの視界を覆い尽くす。


「コココココ‼︎」


 カロンがワンドを両手で掴み、地面に突き立てる。

 周囲一帯に霜が走り、瞬間、天を覆う大地ごとバキバキに凍りつかせた。


「……コシュゥゥゥ」


 氷点下まで下がった空気に白い息を吐くカロンが、いかにもな表情でゆっくりと顔を上げよ


「ッゴ⁉︎」


 うとしたその時、

 ノエルの投擲した木槍が凍ったオブジェをぶち抜きカロンの腹に直撃、吹っ飛ばす。


 10数mスライドし静止したカロンは、肋骨の間に突き刺さり根を伸ばそうとするエグい槍を引き千切る。

 並の攻撃じゃ近づくことすら出来ない。流石と言ったところか。


「……ココココ、コココココっ」


 カロンは周囲に植物を揺らめかせるノエルを見据え、楽しそうに笑った。


 ……そんな不気味な骨を観察しながら、ノエルは無表情で分析を続ける。


「……」


 ……魔力量はノエルと同等、操作技術も多分ノエルより上、そして複数属性の適正、生まれながらのポテンシャルもある。

 脅威度は間違いなくトップクラス。普通に強い。強敵。


 ……でも、言っちゃえばそれだけ。


 逢魔の方がヤバかったし、エル・ロコの方が怖かった。

 目の前の骨には、何も感じない。


「……ん、油断禁物」


 ノエルは自分のほっぺをペチペチと叩き、気合を入れる。

 弱いに越したことはない。さっさと殺してさっさと帰る。それが1番。


 物量で捻り潰そう。そう考えたノエルの瞳に、


「……」


 しかし次の瞬間、僅かに警戒の色が浮かんだ。


「……θερμότητα,αέρας,σύννεφα,βροχή,πλάσμα」


 ボソボソと呟くカロンに合わせ、晴れていた空が徐々に曇り始め、雲間から雷光が顔を出す。

 ポツポツと降る雨が強風に靡き、ノエルの頬を濡らした。


「……」

「……」


 ――刹那、


「『κεραυνόςケラウノス』」


 黒い積乱雲から稲妻が垂直に落ち、轟音を轟かせた。


 飛び散る土砂の中、巨大なゴーレムの手に守られたノエルが、指の隙間からカロンを見つめる。


 その造形に目を輝かせるカロンが、勢いよくワンドを地面に突き刺した。


「『σκλάβοςスクラヴォス!!』」


 直後土がボコボコと盛り上がり、形をなしてゆく。

 人型を成し、鎧を成し、剣を成す。

 立ち上がる300の土塊。

 1体1体がLv4並の魔力を纏う無機質な兵士が、1人の幼女に向かって一斉に地を蹴った。


 ノエルは迫る軍勢を蛇眼に映しながら、しかし一切の動揺を浮かべない。


 自分を守る冷たく太い指に触り、そして呼んだ。



「……立て、『Huitzilo|蜂鳥の巨神』」



 鳴動する大地と共に、地面に手を着いた巨人が土の中から立ち上がる。


 それは初めて東条と戦った時に現れた、否、それよりも更に2回りはデカくなった完全版ゴーレム。


 筋肉は強靭且つ伸縮自在の植物で。

 外装は極限まで硬化し黒く光る岩盤で。

 60mを超える巨体。

 身体に刻まれたエスニックな幾何学模様。

 隣の山に手を突っ込み引き抜いたバカデカい大剣には、美しい蜂鳥ハチドリの刺繍が施されている。


 魔力を十二分に吸い取り顕現した巨神は、


「――」


 母に仇なす不届き者をその黒い瞳に映した。

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