Ursa Major

 


 茶色の毛皮、ぶっとい剛腕、鋭い獣爪。


 Sat総隊長剛力丸王山は現在、腕部を獣化し目の前の有象無象を叩き潰し進んでいた。


 彼の前に道は無く、彼の後ろに道が出来る。

 部隊はその大きな背中を起点とし、展開。着実に、確実に殲滅区域を広げていた。


「出過ぎるなよオノレら‼︎地面の下にも隠れてるぞ!クリアリングも慎重にや‼︎」


「「「「了解」」」」


 腕の一振りで地面が陥没し、爪の一振りで敵が6枚に卸される。


 例えるなら、まさしく動く要塞である。


 彼の仕事は、前線の1部を切り裂き、自陣を強引に広げる最も危険な役回り。


 本来なら自殺特攻にしかならないその行為も、王山であれば作戦の1つに昇華するのだ。


 しかし


「っ次から次へと、」


 如何せん数が多すぎる。


 このレベル帯で戦える人間が少ないのもあるが、防御に人員を割かなければならない反面、攻撃に手が回らなくなるのは自明の理。


 しかし攻撃を疎かにすれば、防衛線が決壊し避難区域までモンスターが雪崩れ込む。


 彼は暴れるモンスターの頭部を握り潰し、全体を見渡す。


(……物量作戦に見せかけて、部分的に統率が取れてる箇所がある。……いるなぁ強ぇのが)


 とその時、彼の鋭敏な危機感知に何かが引っかかった。


「なんや?」


 遠方の海面が不規則に波打ち、近づいてくる。


 直後、


「ブオゥルァアアア‼︎‼︎」

「何じゃぁありゃあ⁉︎」「「「「⁉︎」」」」


 海面から飛び出したのは、20mを超える隻腕の巨人。

 巨人はすぐに上陸し、市街地へと地響きを上げ猛ダッシュを始める。


「泳いできたのか⁉︎ったく、オノレら一旦引け‼︎その後北海道陣営と合流!守備を固めろ‼︎」


「剛さんは⁉︎」


「アレ誰が止めれんねん⁉︎」


「っ了解!」「「「了解!」」」


 駆け出した王山の身体がみるみる膨れ上がり、服がはち切れ体毛が逆立つ。


 進行上のモンスターを、


 ――殴り飛ばし、

 ――蹴り飛ばし、

 ――踏み潰し、


 そして、


「――ッブォア⁉︎」

「グルァアアアアアアアッ‼︎‼︎」


 15mを超える巨大な熊に姿を変えた王山が、激走中の巨人に真横からタックルを食らわせ吹っ飛ばした。



 剛力丸 王山――Beaster model Ursa大熊Dubb巨獣』――



 山肌を削り転がってゆく巨人を目に、大熊が立ち上がり辺りを見回す。


「ここまでデカくなったのは初めてだな‼︎ダハハハっ!」


「ブオゥルァアアアッ‼︎‼︎」


 立ち上がった巨人は踏み込み、岩壁を吹き飛ばし拳を突き出す。


 迫る巨大な拳を前に、大熊はぶっとい腕を構え、――一瞬。片足を引き腰を捻り腕を掴み、


「ドルァッ‼︎‼︎」


 近くの小島目掛け一本背負いでぶん投げた。


 回る景色。

 宙を飛ぶという感覚を初めて経験した巨人は、一瞬何が起きたのか分からず、


「っ⁉︎、⁉︎ッグァ⁉︎」


 落下の衝突と共に投げ飛ばされたことを理解し、すぐさま起き上がる。


 大跳躍した王山が、地面を吹き飛ばし着地。


 同時に腕を振り上げ、


「――ブゥルァッ」

「――グルゥッ‼︎」


 振り抜いた。


 巨人の拳が王山の牙を飛ばし、

 王山の張り手が巨人の顔面をゴッソリと抉りよろめかせる。


「軽い軽イッッ‼︎」

「――ヴ⁉︎」


 足を刈り、完全に体勢の崩れた巨人を左手で地面に叩き落とす。


 同時に引いていた右掌を構え、



「『星焉ほしなりッ‼︎』」



 顔面直下。巨人の頭部が爆散し、大地が爆砕、――島が割れた。



 ……世界最強の肉食獣は何か?ライオンか?虎か?惜しいが違う。


 最強、その2文字を冠すのは、熊である。


 百獣の王と言えど、その圧倒的なフィジカルの前には猫も同然。


 古き開拓時代、日本では彼らを災害・天災と同一視していた。


 そんな生物の力に、魔力という筋肉を上乗せし、15m級に巨大化させ、人の術理をブレンドしたならば、誰がこの怪物を止められると言うのか。


「グルァアガハハハハハッ‼︎‼︎」


 否、誰も止められる筈などないのである。


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