なろうになろう

 


「B6小隊1―3区画へ援護に迎え。A2小隊2―4へ、負傷者の回収。1―5が落ちた、2―5にてB1、3、4小隊で撃滅しろ」


『『『『了解』』』』


 手元のタブレットの中で慌ただしく動く赤い点を見つめながら、千軸は眉間を揉む。


 そんな彼の横に、拳についた血を拭きながら渡真利が並んだ。


「隊長、首尾はどうですか?」


「ん〜、まぁボチボチ。それなりに被害は出てるけど、殲滅速度が思ったより速い。……調査員達のおかげかな」


「やはり強いですね、彼らは……」


「なーに張り合ってんの?軍と調査員じゃタスクが違うし、こーゆーのは彼らに働いてもらわないと。俺はなるべく楽したい」


「……小言を言うのは構いませんが、せめて全体無線を切ってください」


「うわ恥ず、」


『『『『……(失笑)』』』』


 とそこで前方に土煙が上がる。


 民家をぶち壊し現れたのは、10mはある爬虫類型のモンスター。周りを飛び回る隊員に誘導され、1直線で千軸へと向かってくる。


『隊長!こいつお願いします‼︎』


「ボォオオオオオオオッッッ‼︎」


「うわっ、顔こわ」


 ズラリと並んだ牙とギョロついた目。凶悪な顔面に若干引き気味になる千軸は、タブレットを渡真利に渡し頭を掻く。


『外皮が厚く攻撃が通りにくいです‼︎』


「あい了解ー」


 スタスタと歩き出し、自ら敵に近づき射程に入れる。


(領域拡大)


 餌目掛け大口を開けるモンスターが跳躍。


 千軸の指がパチンッ、と小気味良い音を鳴らした。


「ッビョ⁉︎」


 瞬間モンスターの周囲、地中空中360度全方位から鋭利な針が伸び、その巨体を串刺しにし空中に縫い付ける。


『隊長こっちにもデカいの来ます‼︎』


(領域拡大、範囲指定西方50m)


 ベチャっ、と穴だらけになったモンスターが落ちると同時に千軸の姿が消える。


「ゴォ⁉︎」


 結界に突っ込もうとしていた獣型が驚く暇もなく、


「断頭」

「――ゲガ⁉︎」


 瞬間移動した千軸が手を振り下ろす。

 途端具現化し打ち下ろされる巨大な剣が、獣の頭部を斬り飛ばした。


 千軸は霧散する剣を背に、ついでに領域内に入ってきた昆虫型の群れに目を移す。


 蚊を潰す時の様に手を構え、


「……」


 パァンと叩き合わせた。

 同時に全ての昆虫型が潰れ、ビチャビチャと地面に落ちる。



 千軸のcell『異世界』は、魔法で仮想世界を再現し、現実世界に上書きする。


 猿との大戦で、千軸は自らの力の根本を掴んだ。

 深みに入り、理解し、そして伸ばした。


 第2の覚醒とも言える程の成長をした彼の領域内では、『世界』は火水風土雷光氷の7元素に縛られた話ではなくなった。


 先も述べた通り、『異世界』は、魔法で仮想世界を再現し、現実世界に上書きするのである。


 ……そう、



『異世界』の本質は、空想の具現化である。



 その力は千軸の想像力に依存し、そして比例する。


 そこでは何もない場所から鉄の針を生やすことも、瞬間移動も、剣の物質化も、あらゆることが可能となる。



「隊長っ、怪我人連れてきました!」


「そこに寝かせて」


 瞬間呻き声を上げていた10数人の傷口が瞬く間に塞がり、完治。



 領域内の事象は現実に上書きされるのだから、勿論こんなことも可能だ。


 領域外に出ると具現化が解けるため、部位欠損を0から生やすことはできないが、欠損部位が残っていれば癒着など雑作もない。


 故に、



 こと領域内に於いて、千軸はなろう主人公もビックリな俺ツエーなのだ。


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