余裕綽々といった感じで帰ってくる千軸に、渡真利はタブレットを返す。


「……だいぶイキってましたね、」


「⁉︎」


「指パッチンて、ふふっ、凄いドヤ顔で帰ってきますし」


「……」


「あ、ちゃんとカッコよかったですよ。今はああいうのが流行ってるんですか?……どうしたんですか隊長?うずくまって」


 渡真利はその場で膝を抱えうずくまってしまった千軸をゆする。


「いいよ、いいですよ、どうせ俺なんて教室の隅で誰からも相手されず机に突っ伏して毎日毎日自分が活躍して注目を浴びる中俺何かやっちゃいました?って涼しく振る舞うのを妄想してるみじんこ隠キャウジムシですよ」


「やけに解像度の高い自虐ですね。まぁ概ね間違ってはいませんが」


「ッ、っチェンジで!」


「張り倒しますよ?」


 目が笑っていない渡真利から逃げ、シーサーに抱きつきぺろぺろ慰められる千軸は、


「シクシク……ん?」


 しかしそこで、遠くから歩いて来る人影に気づく。


「……藜さん?なんか色々持ってるけど」


「救助者でしょう。保護を急げ!」


 救護担当に命令を飛ばす渡真利と一緒に、千軸も藜に駆け寄る。


 成人男性を両手に引きずり、子供3人と球体と鎧とか剣とか諸々の残骸を浮かべる彼の笑顔には、大して長い付き合いでもない自分でも分かる、隠し切れない疲労が浮かんでいた。


 藜は隊員に救助者を渡し、白杖に寄りかかる。


「救助感謝します。……大丈夫ですか藜さん?」


「あぁ、大丈夫よ。ちょっと魔力使いすぎただけ。……休んでいい?」


「こっちどうぞ」


 千軸は藜を仮説テントに案内しながら球体を眺める。


「……これが?」


「ああ、あの骨よ。殺せなかったから封印してる」


「殺せない?」


「そー。へし折っても潰しても粉々にしても再生するんだよ。見る?」


「いやっ、いいです。とりあえずお疲れ様でした」


 ドッと椅子に腰掛ける藜に、千軸が水を手渡す。


「しかし藜さんがそんなに疲れるなんて、余程の強敵ですね」


「いや、これぶっ壊すのにはあんま苦労しなかったんだけど、なんせ道中あいつら見つけちゃったからさ。いい笑顔で死んでたから迷ったけど、今後使えそうだったから蘇生したのよ。疲労は殆どそれ」


「そ、蘇生?……あの2人、死んでたんですか?」


「うん。死んでた」


 噂には聞いていたが、本当にこの人は死者の蘇生ができるのか。軽くのたまう目の前の男を千軸はスッゲー、と感心しながらも、首を突っ込むと面倒臭そうなので考えるのをやめる。


「なんか凄すぎてよく分からないんで、あの2人のことは任せます」


「おっけー」


「それでは俺はこれで」


「あ、ちょっと待って」


「?はい」


 呼び止められ、千軸は不思議そうに振り向く。


「ちょっとした確認なんだけどさ、こっちにいる軍部の総大将って、千軸さんだけ?」


「……そうですね。確かに総隊長格は三重の方に多いですけど、それは敵陣営も三重の方が多いからです。

 それに軍内部での上位者と、派遣されている人員の総数は宮崎の方が多いです。なので戦力的心配はいらないかと。

 俺が頼りないのは分かりますが、」


「いやいや、千軸さんはよくやってるさ。良い指揮だったぜ?」


「ありがとうございます。では」


「へーい。……あ、そうだ」


 去ろうとしていた千軸に、藜がわざとらしく手を鳴らす。


「まだ何か?」



「……俺ずっとここにいるから、心配しなくていいぜ?」



「……はい。困ったら呼びます」


「そ〜いうことじゃねぇんだけどな〜」


 クツクツと笑う藜を後に、千軸はテントを出て眉間を揉みながら持ち場に戻る。


 ……彼はイヤーカムに触れ、命令を下す。


「特A、聞こえるか?」


『『『『ハッ』』』』


「藜さんは恐らく気づいているが、動く気はないと思う。引き続き監視を続けろ」


『……申し訳ございません』


「お前達のせいじゃない、上が馬鹿なだけだよ。じゃ、よろしく」


『『『『了解』』』』


 持ち場に戻り、大きく溜息を吐く千軸を、渡真利はどこか悲しそうに見る。


「……隊長、」


 千軸は心底不服だと言わんばかりの表情で、



「…………ああ、クソ不愉快だよ」



 紺碧の空を仰いだ。

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