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2人の持つ黒刀はその中でも特注品であり、未だ兵器への転用が難しい中での数少ない成功例でもある。
起動条件はあらかじめ同調させた魔力を通し、『名』を呼ぶこと。
そうして覚醒した黒刀は、媒体にしたモンスターの特殊能力を発現可能となる。
『天鼓』 ……ベース・北海道にて討伐された雷を操るオーガの角。
『黒南風』……ベース・沖縄にて討伐された風を操るゴブリンキングの脊髄。
今の2人には、Lv6を超えるその2体の能力が上乗せされている。
破格の性能。
しかし当然代償も付く。起動中は急速に且つ問答無用で魔力を吸われ、判断を誤れば戦闘中に行動不能、死に至る。
魔力量の少ない彼らにとっては、まさに諸刃の剣。
タイムリミットは、僅か1分。
2人の覚悟を見た騎士が、長剣を地面に突き刺し柄頭に両手を乗せ、
「……Dullahan」
「「っ⁉︎」
名乗り剣を構えた。
驚いた2人であったが、腐っても現代に生きる剣士の端くれ、その意味が何とするかは自然と分かるもの。
「……斉藤 一」
「……土方 仁」
ピリつく空気。
何人も邪魔することなど出来ぬ、達人の領域内。
「「いざ尋常に……――」」
風が止み、
音が止み、
時間が止む。
「――シッ‼︎」「――ふッ‼︎」「――ッHuuu!!!」
――刹那、3者同時に大地を蹴り抜いた。
デュラハンの振り下ろす必殺の長剣、
を2人は横に飛んで躱し、左右から同時に刀を振り抜く。
姿にデュラハンは高速で反応、天鼓を長剣で受け放出される雷撃を辺りに撒き散らし、黒南風を掴もうと
するも居合に加え烈風で更に加速した黒南風が、デュラハンの指を斬り飛ばした。そのまま肩口に直撃、
するよりも速くデュラハンは身体を捻り躱し、長剣を1周、円状に斬撃を飛ばし牽制、突貫、
「Huuu!!!」
「――ッッッ‼︎」
上下左右刺突切り上げ薙ぎ払い、人外の膂力から繰り出される高速の連撃を、
斉藤は目をかっ開き、極限の集中力の中真っ向からいなし、滑らせ、捌きまくる。
1歩踏み込み長剣を振り下ろすデュラハン、
の後ろから急襲する土方が抜刀、
をデュラハンは長剣の軌道を直角に曲げ攻撃。ガードごと土方を吹き飛ばした、
「ォラァッ‼︎」
一瞬の隙をつき斉藤が脇腹を一閃、雷光が煌めきデュラハンの巨体が横に吹っ飛ぶ。
斉藤が地を蹴り追撃。
土方が着地と同時に縮地。
デュラハンが長剣を逆手に構え迎撃。
直後天鼓と長剣が衝突、雷鳴、互いに大きく身体が仰反り、黒南風が腹部のアーマーをを掻っ捌いた。
よろめくデュラハンの背後に土方が回り込み、背中に切っ先を突き立てる。
「――な⁉︎ッ」
がしかしあり得ない体勢から長剣を振り抜いたデュラハン。
「――っ、クソッ」
斉藤が咄嗟に滑り込みいなすも、――失敗。土方の瞳に、宙を舞う左腕が映る。
悲痛に動きを止めそうになった土方を、
「ッ先ぱ「畳み掛けろォッ‼︎」――ッ」
しかし斉藤は怒号で叩き起こす。今ここで止まったならば、それは死だ。止まってはならない。敵が動かなくなるまで、刀を振り続けろ!
土方が歯を食い縛り、柄頭に片手を添え、背中に突き立てた黒刀を全力で捻った。
「――ッ『
「――ッuu!?」
螺旋状の突風が心臓部を抉り、貫通、腹部装甲を吹き飛ばした。
しかしデュラハンは倒れない。
振り抜かれた長剣を土方はスライディングで躱し、
「――ッゥオラァッッ‼︎」
「vvvvvv!!!???」
その後ろから跳躍した斉藤が頭部の無い首に刀を突き立て、大放電。すぐに投げ飛ばされ地面に叩きつけられるも、血を吐きながら刀を構え駆け出す。
「――シィッ!」
痺れるデュラハンに土方が急接近、大地を踏み締め、――居合抜刀、度重なる攻撃で傷ついていた肘関節部分を斬り飛ばした。
同時に突き出された長剣を躱し切れず脇腹が血を吹くも、決して膝は着かない。長剣の腹に鞘を叩きつけ、道を作る。
瞬間飛び込んで来る斉藤。デュラハンが強引に振り上げた長剣を躱そうともせず、頬肉を犠牲に雷光迸る黒刀を振り抜き敵半身を吹き飛ばした。
そこからは意地と意地のぶつかり合い。どちらが先に倒れるかの我慢比べ。
――真っ向払い袈裟いなし受け一文字逆袈裟滑らせ十文字崩し居合スイッチ連斬り、全身を抉られ血を吹きながらも、更に加速し刻み込む。
一撃が重い。骨が軋む。頭が割れそうだ。……それでもどうしてか、彼らは笑っていた。
どうしてか、笑みが止まらなかった。
「「――ッッオオオオオオオオオオオッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」」
「――ッッッOooooooooooooooooooッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
――長剣が地面を叩き割り、瞬間切り返し足元を一閃。
――一瞬体勢を崩した土方の両足が吹き飛ぶ。
――横目に倒れゆく土方を見ながら、斉藤は残る片腕に全魔力を集中、腕がビキビキと悲鳴を上げる。
――隙だらけの斉藤に向かってデュラハンが長剣を振り抜いた。
時間が遅く感じる。景色から色が消え、必要のない全ての情報がカットされる。手が熱い、柄を握る手が熱い。
ただこの一撃に、全てを。
――しかしデュラハンの一撃が届く方が速い。楽しい勝負の終幕を悟る首無しの騎士。
――刹那、
「『――
「U!?!?!?!」
デュラハンの身体が傾き、長剣が空を切った。
何が起きた⁉︎足下を見れば、斬り飛ばされた己の足と、刀を振り抜いた土方の姿。
この男は、あの状況から仲間を信じ剣を振ったのか。
「……お返しだ」
してやったりと笑う土方に、デュラハンの全身を感じたことのない感情が駆け巡る。
――これが、喜び。
最後に彼の目に映ったのは、騎士生最大、最高の好敵手の、心底楽しそうな笑顔だった。
「……great」
――「『
閃光、雷鳴。横一文字に残雷を靡かせた一閃が、満足気に光る美しい長剣ごと、そのフルプレートメイルを真っ二つに斬り裂いた。
「……死んだなぁ、こりゃ」
「……死にましたね、これは」
血の中に倒れ伏した2人は、冷たくなる体温とぼやける視界に死期を悟る。
「……いるか?」
「……いります」
斉藤が煙草を渡し、土方が火をつけた。
「「…………ふぅ〜〜」」
青い空に、ゆらゆらと紫煙が昇ってゆく。
「……俺は楽しかったぜ?」
斉藤がケラケラと笑う。
「まぁ、……悪くはありませんでした」
「サラリーマンやってるよりよっぽど良かったろ?」
「ふふっ、それは間違いないですね」
「……あぁ」
斉藤の口からポロリと煙草が落ちる。
「……わり、先逝くわ」
土方も笑い、目を瞑る。
「……はい、すぐに逝きます。……向こうで飲みましょう」
「……」
「……」
最後の煙草が血溜まりに落ち、その火を消した。
「……おうおう、スゲェなこりゃ」
救難要請に歩いて駆け付けた藜は、倒れ伏す2人を覗き込む。
「……い〜い顔してんじゃないの」
眠る彼らの顔は、とても満足そうで、とても幸せそうだった。
藜は腕を組み、少し考え、天を仰ぎ、唸り、頭を掻き、……溜息を吐く。
「はぁあ……こんなに疲れる予定じゃなかったんだけどな、」
透き通る蒼穹の下、祝福の光が2人を包んだ。
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