jumping girl

「クソっ、引けッ引けっ!」


「小隊長ッ分断されました!どうすれ――

「――っしゃがめぇ‼︎」


 市街地内の1区画。

 民間人救助を担当する小隊はあるモンスターの群れから逃げていた。


 たった今首から上を持ってかれた部下が倒れる音を聞きながら、小隊長は空を睨みつける。


 そこに羽ばたくのは、羽毛に覆われた全身に、鳥の脚と大きな翼を持つ女面鳥身の怪鳥、ハーピー。


「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」


 不気味な笑い声の様な鳴き声を上げるハーピーは、1匹の持つ生首を取り合っている。


 ギョロついた目、ベタついた毛髪、歪に並んだ牙。

 これを女面と言った輩は、しっかりとその顔を見たのだろうか? あるいは醜すぎて直視できなかったのかもしれない。


 部下の頭部を貪る10数匹のハーピーを睨みながら、小隊長は玉の冷や汗を垂らす。


(っ属性魔法を使える奴はもういない。身体強化も、俺達のレベルじゃせいぜいあのブス共の咀嚼を遅らせる程度っ、どうすればいい⁉︎)


「小隊長っ、小隊長どうすれば⁉︎」


「っ……」


 焦り怯える部下達を見た彼は、1つ息を吐いて自らを戒める。


「(そうだ、俺が焦ってどうするっ、俺はこの隊のリーダーだろ!)……俺が時間を稼ぐ。お前らは逃げろっ」


「⁉︎バカ言わないでください!」

「俺も残ります!」「死ぬ気ですか⁉︎」


「このままじゃどっちみち全滅だ。お前らは走って中隊長格を呼んでこい!」


「ですがっ!」


「命令だッ、行け‼︎」


「「「――ッ」」」


 走り出す人間達に気づいた1匹が急降下、鋭い鉤爪を構え首を刈りとらん


「ぐゲェ⁉︎」


 とするその横っ首に、小隊長が渾身のラリアットを叩き込む。

 ゴロゴロと転がるハーピーに馬乗りになり、首を掻っ切った。


 上がる汚い断末魔に、他のハーピーも急降下を始める。


 小隊長はそんな光景を目に覚悟を決め、


「……チッ、最後くらいは綺麗な女に見送られたかったぜ」


「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」


 バトルナイフを構えた。


 ――その時だった。


「何言うとるん?」


「……は?」


 目に映る景色が一瞬で切り替わり、小隊長が尻餅をつく。


 見上げるとそこには、スタイリッシュなアーマーの上にパーカーを羽織った、キツい目をしたJKが立っていた。


 紫苑は細身のナイフをホルダーから抜き、屋根の上から騒いでいるハーピーを眺める。


「……君は、誰だ?」


「2級調査員。……邪魔やからはよ逃げてくれへん?次は助けへんし」


「あ、ああっ。感謝する!」


「うぃー」


 手の中でくるりとナイフを回した紫苑は、1直線でこちらに飛んで来るハーピーの数を数え、その首に座標をする。


「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」「ゲェっゲェっゲェ」


 小隊長が振り向き、


 ハーピーが叫び散らし、


 紫苑が軽く飛び降りる。



「……うっさ」



 ――刹那、


「ギョ⁉︎」「ガゲ⁉︎」「ギュ⁉︎」「ブシェ⁉︎」「ギャ⁉︎」「アギャ⁉」「ォゲェ⁉︎」「――ッ、ゲェ‼︎」


 7匹のハーピーの首から、同時に鮮血が噴き出した。


 その間、僅か0・8秒強。


 彼女は触れた物体の同時転移に加え、ノエルからの課題であった0・1秒の座標指定を完全に物にしていた。


 そして自ら編み出したのがこの技。あらかじめ設定した座標を最速でなぞる連鎖転移。


 そのスピードは、まさに神速である。


 小隊長が驚愕に目を見開き、唯一致命傷を免れたボスハーピーが怒りに叫ぶ。


「……皮あつ、だる」


 振り抜いた銀光に血を靡かせる紫苑は、空中でくるりとバク宙、転移。


「ゲ⁉︎」


 突っ込んでくるボスハーピーの背中にジャストで乗り、振り上げたナイフを一気に突き刺し引き下ろす。


「ギェアアアア⁉︎アギャ⁉︎」


 ポケットから手榴弾を取り出し、口でピンを引き抜き肉の中にねじ込み飛び降りた。


 落下する彼女目掛け、急直下するボスハーピー。


 怒りに染まった顔を見ながら、紫苑は指をピストル風に構え、


「……バン」


 瞬間、ボスハーピーの上半身が爆散。肉片が飛び散り血の雨が降った。



 同時に唖然と立ち尽くす小隊長の横に、紫苑が転移で降り立つ。


「うぉっ」


「……じゃ、次は死なんようにね」


「あ、ああっ、ありがとう!」


 冷めた口ぶりで颯爽と消える美女。


 彼女が残したとは思えない程に凄惨な現場に息を呑み、小隊長は再び走り出した。


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