開戦



 トップスピードに魔法の爆発を加え急加速した貨物船が、ビーチに張られた即席のバリケードを吹き飛ばし、コンクリを削って一気に市民街へ突っ込む。


「ブルォオオオオオッコココココッッ‼︎」


 ロケット砲をシールド状の腕で弾き飛ばし飛び降りた牛型。

 その後ろから続くモンスターの軍勢の量に、


「……っ」


 相対する人間は目を剥いた。


 恐らく貨物船内部にギュウギュウに詰められていたのだろう、尋常でない量の小型、中型の群れが瞬く間にビーチを埋め尽くし、ドス黒い波となって押し寄せる。


 修正される危険度、迫り来る恐怖、


 しかしやることは変わらない。


「遠距離部隊は撃ちまくれ‼︎1匹も通すな‼︎っ結界展開‼︎」


 軍隊による高所からの魔法掃射に合わせ、宮崎市内を半透明な壁が分断してゆく。


 その発生点に座るのは、


「ほっほっほ、お互い気張ろうのぉ」


「バゥッ」「ガルルッ」――


 北海道で地下に村を作った村長と、


 市内を半円状にズラリと並んだシーサー達。


 なんと彼らは1ヶ月前、本土に泳いで渡ろうとしていたところを海上自衛隊によって保護されていた。


 聞いてみればその理由も、人に会いたかったからという何とも可愛らしい理由。

 今では日本中にファンのいるマスコット的存在になりつつある。


 広域連鎖結界による市街の隔離。

 この地点が最終防衛ラインである。


 護衛を務める千軸隊は、逃げ遅れた老人子供を保護しながら、流れてくる血の臭いに気を引き締めた。



 §



「……」


 上空に浮かぶ藜は、モンスターの波に掌を向け、……少し考えてからやっぱり下ろす。


「(お国の上層部は早すぎる解決を望んではねぇだろうし、俺もそっちの方が好都合だしな)……乗っちゃお」


 市街地へ大群を素通りさせる藜は、そこで自分に向けられる熱い視線に気づく。


「ん?……何だよそんなに見つめて、好きなの?」


「……ブルゥ……ココココココ」


 地上からジっと見上げてくる、牛型の異形。


 向こうも分かっているのだろう。自分が誰を相手にすべきなのか。


 ゆっくりと地面に降りる藜。



「ま、お互いダラダラ暇つぶそうぜ?」



 汚い喧騒の中、白杖が小気味いい音を鳴らした。

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