Alle Dinge knien vor der Schwerkraft.1
突如空から降りてきた人間に、当然の如く周囲のモンスターが反応し襲い掛かる。
同時に牛型も踏み込み、アスファルトを砕き飛び出した。
瞬間、
「芸がない」
ズンッッ‼︎
という重音と共に、彼に牙を剥くモンスターの姿が消えた。
半径数mの真っ赤な池の中心で、藜はパチパチと手を叩く。
「頑丈だね〜」
池の中で直立する牛型は、さして抵抗も感じさせない足取りで再び走り出す。
「全身が骨、内臓は〜見えないな」
「――」
「でも目玉はあるし、神経系はあるのか?」
「――、――」
「どういう構造してるんだお前?」
「――……コココッ、」
1歩ごとに増してゆく超重力に、遂に牛型の足が止まる。
助けに入ろうとしたモンスター数匹が、一瞬にして血霧と化した。
数100倍の重力が掛かる即死領域の中で、藜はプルプルと手を伸ばす牛型を覗き込む。
「おっそろしい強度だな。効いてるようにも見えないし、臓器ないの?……いや、待てよ?」
藜がその骨で出来た指を掴んだ。
「ブr――
――瞬間、牛型の巨体が掻き消えた。
否、途轍もない速度で真横に吹っ飛んだ。
民家数棟とマンション2つ、ビル1つをぶち抜き、顔面で地面を削りながら小学校の教室に突っ込み黒板に突き刺さる。
「……ブルゥ」
「ビンゴぉ!」
頭を引き抜いた牛型は、指を掲げヒラリと入ってくる藜を睨みつける。
その罅の入った半身は即完治。今の攻撃ですら、ダメージらしいダメージは無し。
しかしそんなことはどうでも良いと、藜は嬉しそうに指の断面を覗く。
「お前の臓器、骨の中に入ってんだなぁ!ほっそいな〜、これはどこの部位だ?んお?」
だが少しすると、興味津々に覗いていた藜の手から指骨がサラサラと消え、牛型のもげた指が復活した。
興味深い現象に、藜は目を細くする。
「……それは生理的なもんじゃねぇなぁ、cellか?」
「――フブルッ」
教卓を蹴り飛ばし接近、巨腕を掲げた牛型
「あぁいいから、そういうの」
がガンガンガンガンガンガンガンガンガンッッッッ‼︎‼︎‼︎
と滅茶苦茶に操作された重力に振り回され、学校中をぶっ壊れたカエルの様に跳ね回る。
衝撃と速度に耐えきれず校舎が崩壊する中、藜は白杖で肩をトントンしながら思案する。
「ん〜(てことは生物だから、殺す手段はありそうだけど、……でもさっきの再生、ってより復元に近いか?本体を中心に部位が復元されるのか?その場合の本体ってのはどこを指す?脳?心臓?……ま、なるようになるか)
クハハっ、亜人みてぇだな!」
「コ――
白杖を構えた藜が、メジャリーガーよろしくフルスイング。
軌道を操作された球はジャストミート以外に有り得ない。
衝撃波でその階の窓ガラスが全て砕き割れ、ちょっと大きめのボールが校庭に墜落し盛大な土煙を上げた。
自身も校庭に降りようとした藜は、
「……ん?え?」
そこで隣の教室を二度見する。
何とそこには、角で怯え固まる3人の小学生がいるではないか。
「なーにしてんの君達⁉︎」
「ひ、ひぐぅ」
「っすごい戦いが見れると思ってっ、ご、ごめんなさいっ」
「ごめんなさいぃ、グスっ」
泣き出してしまう3人に、藜はあちゃ〜と頭を掻く。
市民とかどうでもいいし、魔力感知一切索敵に回してなかったせいで気づかなかった。どうしよこれ。
「とりあえずほら、キャンディいるか?……あ、これは普通のキャンディだぞ?俺はもう善良な人間だからな」
「?あ、ありが「「ッ⁉︎っ⁉︎⁉︎」」」
瞬間4人の背後に跳躍してきた牛型、が軌道を直角に曲げ天井を突き破り消えてゆく。
「い、今の……」
驚く3人を抱き抱え、藜はふわりと校庭に着地する。
「君達が見たがってたモンスターさ。この際だ、おじさんがその願い、プレゼントしてあげよう!」
「「「え?」」」
「どんな戦いが見たい?何でも言ってみな?あ、近接はカッコ悪いとこ見せちゃうかも、おじさん足悪いから」
校庭に落ちてきた牛型に、3人がビク、と震える。
「お、おじさん!来てるよ⁉︎」「ヒィィっ⁉︎」「っ凄い、凄いのが良い‼︎」
その注文に、藜がニヤリと笑う。
「クハハっ、凄いのね。OK」
「ルッ」
接近していた牛型は咄嗟に腕を交差させ、放たれた重力波を受け止める。
しかしその影から接近した藜が、白く明滅する拳を振り抜いた。
インパクトと同時に空気が揺れ、牛型が飛び退く。
3人は一切目で追えなかった『知らないおじさん』の動きに瞠目し、冷や汗を垂らす。
阿修羅を纏った藜は、無造作に髪を掻き上げ、
「客の要望だ。さぁ、――派手に踊ろうぜ?」
決して子供には見せられない、獰猛な笑みを浮かべた。
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