ある管制室での会話

 


 ここ航空海洋管制室では、日本に迫る脅威を未然に察知するため、日夜無人機による日本周辺のパトロールを行なっている。


 しかしここ数ヶ月、海鳥と変な顔の魚以外カメラに映るものは無し。


 モニターに映る穏やかな水平線に、勤務中の若者がゴン、とデスクに頭を落とした。


「ヤッベぇ、暇すぎて死にそう……」


「勤務中だぞ。顔上げろ」


「ふぇ〜」


 ベテラン職員の強面オジに叱られ、彼は仕方なく顔を上げる。


「ずっと変わらない画面見てて飽きないんすか?」


「飽きる飽きないじゃねぇ。俺らが日本守ってんだ」


「ぃや〜流石っす」


 彼はモニターの横に広げた菓子をつまみ、心ここにあらずと言った風に呟く。


「……オメェ、何でこの部署に来た?」


「俺の希望じゃないですよ!俺が行きたかったのは群馬試験場です!」


「オメェ、もうちょい歯に絹着せろ。心がキュってなったぞ」


「あ、すいません」


 オジは差し出されたお菓子を悲しげに口に放り込む。


「オメェもまだ若いし、申請すれば部署移動も出来るだろうよ」


「んー、でも忙しいとこに飛ばされたら無理だし、コワオジ俺に優しいし、案外ここ気に入ってはいるんすよね」


「どっちだよ……んだよ、いきなり褒めんなよ(ボソ)」


「つまんないけど」


「おい」


 睨むオジに、彼はヒョイ、と顔を背ける。


「つまんねぇこたねぇだろ。この前も未確認生物の影見えたじゃねぇか。ありゃぜってぇ大物だぞ。100mはあった」


「あ〜、雲の上に見えたって言う?絶対見間違いですって」


「上に報告しても知らぬ存ぜぬの一点張り。なのにパトロールに雲の上が追加された。アイツら絶対何か隠してるぞ」


「こわ〜、あんま首突っ込むと消されそう」


「こ、怖いこと言うなよ」


「衛星できりゃ楽なんすけどね〜」


「ま、あと1年くらいで出来んだろ。科学部の奴らもなんか新しい技術仕入れたらしいし」


「……そういう情報、いったいどこから仕入れてんすか?」


「長くやってりゃ知り合いも増える。スゲェ極秘情報でもなけりゃ、こんな暇な仕事やってられっか」


「暇って言っちゃったよ」


 彼はクスリと笑い、再びボケーと画面を眺める。



 ……あ〜平和だな〜。



 今日も今日とて、何も現れない日本遠海。平和以外の何者でも、


「…………ん?」


 モニターの端に映る何か、人工物の様な……。


 彼は身体を起こし、無人機を手動操作に切り替え、カメラを拡大。


 そして、絶句した。


「……何だよ、これ……」


 5隻の貨物船と、そこに乗る多種多様なモンスター。その数、ざっと1000は超えている。

 人工船に乗ってるし、友好的かも知れない?バカな、ならば船を飾り付けている人骨の数は何だ?いったい、いくら殺せばあんな……。


「今日は早く帰れそうだな、待ってろよマイハニー」


「……っオジっ、コワオジッ‼︎」


「っ⁉︎な、何だ⁉︎」


 ペンダントにキスをしていたコワオジが跳ね起きる。


「見てください‼︎ここ!こいつら!」


 モニターを覗き込んだオジの目の色が変わる。


「……っ、……こいつは、ヤベェ。っ緊急回線で本部につなげ!俺は直接軍部に連絡する‼︎」


「っはい!」


「コンピューターに到着予測地点を割り出させろ!」


「わ、分かりましたっ!」


「俺らのミスで人が大勢死ぬぞっ、気張れよ!」


「――っ」


「っ岩国か‼︎ウルセェ緊急事態だ‼︎軍部には中継繋いどいたから今すぐ行け‼︎日本が終わるぞ‼︎」



 一瞬にして慌ただしくなる管制塔本部と日本政府。


 割り出された地点は三重県と宮崎県の2ヶ所。


 発令される緊急避難命令。



 これから始まる決戦の空気を肌に感じ、船上の悪魔は薄く笑った。

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