月下の奴隷

 



 ――辺りを暗闇が包む中、夥しい数のモンスターの目が怪しく光る。


 人のいなくなったグアムは、彼らの占領地と化した。



 山の様に積まれた人間の惨殺死体。その上に座る、3体の『使徒』。


「「「……」」」


 月明かりに怪しく反射する身体。


 闇に溶け込む大角。


 赤く光る瞳。


 の前では、全てのモンスターがこうべを垂れる。



 隻腕となった巨人も。


 西洋の甲冑に身を包んだ首無しの騎士も。


 絶えず形の変わる不定形な身体を持った女性も。


 伝説の代名詞、ドラゴンでさえも。



 その4体の後ろにズラリと膝をつくモンスターの大群。


 よく見ると、彼らは一様に震えていた。


 加えて彼らの身体には、総じて凄惨な傷跡が付いていた。


 それは戦闘で付くような物ではなく、まるで、拷問の跡の様な。

 巨人も、ドラゴンも、例外ではない。


「……」


 山羊型が持っていた本をパタン、と閉じ、肘掛けに寄りかかる。


「You……you……you……come」


「っ」「っヒギッ⁉︎」「フゥッフゥッフゥッ」


 指差された3体が目を剥き、震えながら立ち上がる。逃げようとした者もいたが、他のモンスターに羽交締めにされ突き出された。


 彼らは今日の襲撃の際、人間に怖気づき敵前逃亡を図った者達だ。


 ……此度の見せしめは彼らで決まりだ。



 そこからは、ただ絶望の悲鳴が響くだけの時間である。


「コココココッッ!!」


 笑いながら鞭を振るう山羊型の笑い声と、痛みに叫ぶ弱者の声、そしてそれをただ黙して待つ数100の配下達。


 ――数10分後、山羊型の前には、2つの死体と、ガタガタと震える傷だらけの1体が転がっていた。


 山羊型は満足したのか、鞭を捨て、肘掛けを持って近くの瓦礫に座る。

 牛型と鹿型も人間の山から降り、瓦礫に座った。


 それを合図に、食事が始まる。


 先頭の4体から順に肉を取り、各々貪り始める。



 巨人は山をゴッソリ鷲掴み、その場に座って。


 騎士は数人を肩に担ぎ、最後列の回ってこないであろうモンスター達に分け与えながら。


 不定形な女性は透明な管を突き刺し、チューチュー吸いながら。


 ドラゴンは1部を咥え、物陰で1人。





 彼らに自由はない。


 自由とは死であり、生物である以上、死とは恐怖である。


 故に彼らに、自由はない。












「「「……ココココココココココ」」」











 月光の下笑うソレは、肘掛け、



 ……ウィリアムの生首を月に掲げ、齧り付いた。


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