25話

 


 ――道中ノエルとの思い出を振り返ったり、それに灰音が嫉妬したりしながら、3人は藜組の本部に到着する。


 東条とノエルの姿を見た見張り全員が、一糸乱れぬ動きで頭を下げた。


「「「「ご無沙汰してます、東条さん、ノエルさん」」」」


「いや怖」


「くるしゅーない」


「すっご……」


 東条はやめろやめろと手を振りながら頭を上げさせる。


「藜さんに呼ばれて来たんですけど」


「申し訳ございません。只今ボス含め、幹部の方々も席を外しておりまして」


「あ?」


 いやほんと何がしたいの?俺遊ばれてんの?キレるよ?東条のひくつく笑顔に、見張りの肩がビクっ、と震える。


「ボ、ボスより伝言を預かっております!」


「伝言?」


「ここに来て欲しいと」


 見張りが3通の箔押しの招待状を差し出してくる。受け取り見てみると、表にキスマーク、裏に地図が書かれている。きったね。こんなに凝るくらいなら連絡くれよ。


「……ここ池袋じゃん」


「あのデパートの場所」


 東条はノエルと灰音に手を引かれ、本部を後にしながら訝しむ。


 話したことはあるが、あいつがここを指定する理由が分からない。俺の出発地点で食事ってのは確かにエモいが、……うん、多分それだな。藜ならやりそうだ。


「……まぁ元から行くつもりだったし、いいか」


「「ごっはん、ごっはん」」


 ウキウキとスキップしてゆく2人を見ながら、東条は苦笑した。



 ――「……あの日はなぁ、溢れ出てきたモンスターにビビって、ここから逃げ込んだんだよ」


 東条は嘗ての恐怖を思い出して笑いながら、トレントが散在する池袋駅の地下へと歩いてゆく。


「地下に行ったんだー」


「それ以外道なかったし。そういやノエルお前どっから来たんだ?」


「同じ。強そうな臭い感じたから食べにきた」


「あーそれで返り討ちにされちゃったんだ?」


「ん。後ちょっとだった」


「起きたら腰まで飲み込まれててビビったな」


「アハハっ、おもしろっ」


「面白くねーよ。一応死にかけてっからな?」


 東条は然程変わっていない室内を見渡しながら歩を進める。


 ……階を上って行くごとに蘇る記憶の数々。あの時過ごした場所を、あの時とは違う者達で歩いている。

 何つーか、人生だ。


「ん?おま、TVつけっぱじゃねーか⁉︎」


「忘れてた」


 1台の大型TVが、埃と酒と大量の本に囲まれ寂しそうに音を垂れ流していた。画面の中の人も、心なしか悲しそうな顔をしている。


「消しとけよー」


「ん」


「……ノエルはここで勉強したんだ?……うわ、難しそう」


 灰音は埃まみれの本を拾いペラペラと捲る。


「最初はマサが教えてくれた」


「桐将君やっぱ優しいね。好き」


「好きー」


「……やめろ」


 東条はスタスタと先に進み、半壊した入口を潜る。


「……」


 顔を出すとそこは空の下。


 自然と頬が上がるのが分かった。


 絡み合った根で修繕された地面。緑の絨毯。積み重なった瓦礫。そして中央に立つ、数10mを超える巨大なトレント。


「……ただいま」


 風に揺れるマイホームが、葉擦れの音で返事した。



「すご、庭園じゃん」


「数えきれねぇくらい殺したからな」


 ……墓参りするにゃちょっと早い気もするが、ま、来たい時に来るのが1番だろ。


 マイホームの下に立てた墓標を目に、


 ……しかしふ、と東条は足を止めた。


「桐将君?」


「……ブローチがねぇ」


 墓標に掛けておいた、彼女のブローチが無い。

 辺りを漁るも、それらしき影は見当たらない。


「っ紫色のブローチだ、ないか?」


「こっちには無いかな」


「ん。こっちもない」


 まさか藜が?いや、あいつはカスだがクズじゃねぇ。俺の大切な物に手を出すなんて考えられないし、考えたくない。……もしかして、ずっと前にあったていう台風でどっか飛んでったのか?でも固定して……ああ、それが1番可能性が高い。


 東条は尻をつき、天を仰ぐ。


「……やっちまった」


 こんなことなら持ち歩いときゃ良かった。それはそれでキモいか。


「……大丈夫?僕探してくるよ?」


 灰音がしゃがみ、心配そうに聞いてくる。


「ノエルあっち見てくる」


「……いや、いいよ。ありがとな」


 走り出そうとするノエルの頭を撫で、立ち上がる。


「さっさと乗り越えろって神様が言ってるわ。神なんざ信じてねぇけどな」


「いいの?」


「よかねぇが、無くなっちまったもんは仕方ねぇさ。てか藜どこだよ、今俺クソ萎えてんだけど、もう帰るぞ?」


「いいんじゃない?3人でご飯食べよ。僕そっちの方が良いし」


「ノエルはどうする?」


「マサ奢って」


「んでだよ。……ククっ、何食いたい?」


「「肉!」」


「おけ」


 アイツは今度本気でぶん殴ろう。そう心に決め、Uターンしようとした、


 その時だった。


「?……2人とも、何か来る」


「マサ準備」


「ぁ?……何だ?」


 灰音とノエルが身体強化を纏うと同時に、屋上に何かが着弾した。


 突如空から降ってきた影。砂埃の中で立ち上がるそれらが放つ尋常でない魔力の圧を、3人は余裕で受け止める。


「人かな?」


「殺す?」


「殺さない」


 黒い外套を纏った4人組。深いフードのせいで顔は見えないが、只者で無いのは確かだ。


 こんな奴ら組合にいたか?それとも国の別組織か?

 訝しむ東条の目は、そこで外套の1人が首から下げている物で止まった。



 ……罅割れた紫のブローチ。



「……あぁ、……殺すか」


 東条の目から慈悲が消えた。








〜後書き〜


え〜すみません。とても良いところですが、沖縄行ってきます。はい。旅行です。はい。31くらいに帰ってきます。んじゃ。

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