24話

 


 長身の男、もとい東条は驚き手を離す。


「おま、何やって、何でここに……」


「ふふ、ボスさんが連絡くれてさ。2人が東京行くから、良ければついて行きなって」


「藜が?何考えてんだあの野郎」


「よっ、ノエルも久しぶり」


「よっ」


「ノエルお前知ってたの?」


「知らなかった。嬉し」


「僕も嬉しいぞ〜」


 頭を抱える東条の横で、ホイホイヨイヨイと挨拶を交わす2人。

 不審者の挙動に周りがざわざわし出したのを察知し、3人は慌てて場所を変えた。


 駅から出て、準備していたハイヤーに乗り込み一息吐く。


「あははっ、何か有名人みたいで楽しいっ」


「はぁ、有名人なんだよ。自覚しろ」


「灰音元気だった?」


「元気だったよ〜、ノエルは?」


「ん。元気」


「「ウェーイ」」


 東条はフードもマスクも外し、座席にもたれて彼女にジト目を送る。


 灰音はそんな彼の胸に寄りかかり、上目遣いで微笑んだ。


「何で会いにきてくれないのさ?」


「……まだ1週間だろ」


「もう1週間だよ。寂しかったのに」


「……アイドルだろ、自重しろ。運転手さんもいる」


 東条は目を逸らし、名残惜しそうに眉尻を下げる灰音を押し退ける。


「ボスさんの側近でしょ?じゃあ大丈夫だよ」


「そういう問題じゃない」


「けち」


「黙れ」


「…………(ノエル蚊帳の外)」


 よく分からない空気感の中、車は進む。



 ――「え?ここ?」


「ここだ」


 車から降りた灰音は、目の前に広がるバカデカいバリケードを見上げる。


 そこは日本最初のデッドゾーン。東京特別区域。東条達のアナザースカイだ。


「えー、桐将君の実家に行くんじゃないの?」


「行こうと思ってたけどやめた」


「何でさ⁉︎」


「お前みたいなヤベェ奴親に会わせられるか」


「酷⁉︎挨拶したかったのに」


「……」


 組合東京支部に入り、受付にバッジを見せる。


「東条様とノエル様ですね、そちら黒百合様でお間違い無いでしょうか?」


「あ、はい。黒百合です」


 お辞儀する灰音に受付が微笑む。


「はい。本日は冒険者級と同伴ということで、特別に許可が降りていますので、どうぞお入りください」


「……藜が?」


「?はい。藜様から事前に連絡を貰っております。東条様からの伝言ということでしたが、」


「ああ、はい、分かりました」


「ではお気をつけて」


 ……何考えてんだあいつ?

 頭にモヤモヤを抱えながらも、東条は厳重な機械式の扉を潜り、特区に足を踏み入れる。


 最近までいた筈なのに、その景色が、匂いが、嫌に懐かしく感じた。


「……懐かしいな」


「ん」


 現在地は港区、レインボーブリッジ前。目指すは皇居隣の藜組本部だ。


 スタスタと歩く2人の後を灰音もついてゆく。


「そもそも、何で2人は東京に来たの?」


「藜に飯食おうって誘われたんだよ。別に暇だったから来てやったけど。連絡も無視しやがるし、意味が分からねぇ」


「ご馳走だって」


「わー、僕それ知らなかった。楽しみ」


「ん」


 テンションの上がる灰音に、東条は溜息を吐く。


「お前、本当に俺に会うためだけに東京まで来たのかよ?会えるかも分からなかったのに」


「?うん、当たり前じゃん」


「……」


「ボスさんには感謝してるけど、正直どうでもいいし。君がいなかったらこんなとこまで来ないよ」


 当然だと微笑む彼女の純粋な気持に、東条はそっぽを向く。


「……悪かった」


「え?」


「悪かった、会いに行ってやらなくて」


「……ふふふ、いいよ。こうしてまた会えたんだから。僕は満足さ」


 灰音はそっと彼に寄り、腕を絡める。東条も抵抗はしなかった。


「でも次は君から会いに来てくれよ?……鍵は開けとくから(ボソ)」


「……善処する」


「ふふっ」


 そんな2人の会話をつまらなそうに聞く者が1人。ノエルは頬を膨らませ、隣を歩く東条に手を突き出した。


「ん!」


「あ?何だよ」


「ノエルも!」


 東条と灰音の腕を指差し、掌を突き出す。


 意味の分かった彼らは、堪らず噴き出してしまった。


「ククっ、お前、可愛い奴だな〜」


「ん。ノエルは可愛い」


 東条は片手でノエルを持ち上げ、腕に座らせる。


「両手に花たぁこのことだな。片っぽ呪われてっけど」


「ちょっと、レディにそれは酷いよね?」


「事実だろ。なぁノエル?」


「なー?」


「えー……」


 うっとおしそうに腕を引き抜こうとする東条に、灰音は口を尖らせながら抱きつくのだった。

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