投稿 4

 


『……お前ら大丈夫か?』『ああ、ちょっと失明しただけ』『俺もちょっと鼓膜破れただけ』『ちょっと死んだだけ』『よし、皆無事だな』『こいつらの動画見すぎてるせいで怪我の定義おかしくなってて草』



 ――ふわっふわに爆発した髪を揺らしながら、ノエルは頬を膨らます。



『え、可愛い』『ブフォッ』『治った』『治った』『治った』



 東条はノエルに促され腰を下ろし、火傷痕を見せる。



『っ』『っ』『いてて』『これは、』『深いな、3度熱傷か』『もう治らないぞこれ』『医療関係者も見てるのかこの動画』『危険行動多すぎてショック死しそうだな』



 ――東条は薬を塗ってもらった右腕を掲げ、呆ける。

 目の前にあるのは、さっきまで所々焦げていた腕。その細胞がみるみる内に再生と癒着を繰り返し、元の傷だらけの腕に戻ってゆく。目に見える速さでだ。



『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『ッ⁉︎』『っ有り得ない‼︎』『革命だ』『ガチでポーションじゃん』『回復薬』『美味しそう』『飲みたい』



 ――瞬間、

「――キュイ」

「ん?キュイ?――ッ⁉︎」

 途轍もない速度で突っ込んできた何かに蹴りを入れられ、東条はノエルを掲げたまま、腰をくの字に曲げぶっ飛んだ。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『っ⁉︎』『今度は何だ⁉︎』



「ッはっえ⁉︎」

「キュ⁉︎」



『はい、また目で追えなくなりました』『何が起きてんだよ⁉︎』『小型の恐竜がマサと互角に戦ってるぞ』『お前は!』『いつぞやの1級!』『今どうなってんだ⁉︎』『ノエルが蔓伸ばして追い込んでる』



 ――ディノは腹に掌底を叩き込まれ地面を転がった。



『っ⁉︎』『なんか出た‼︎』『誰だこいつ⁉︎』『爪なっが⁉︎』『恐らくディノニクス。小型の肉食恐竜。腕に生えた羽が特徴的』『恐竜博士!』



 ――遠くの地面からひょっこり頭を出すディノ。土を頭の上に乗せこちらを見つめる顔は、何というか、どうにもおちょくっているように見えてならない。



『え、可愛い』『なんか可愛い』



 ――ガードに向けていた漆黒が全て弾け飛び、伸ばされた東条の腕が螺旋状に血を吹いた。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『やっぱ可愛くない』『全然可愛くない』



 東条は咄嗟にしゃがみ首筋に迫っていた影を躱し、スイッチ。ノエルがcellをぶっ放し影ごと地面を抉り飛ばした。

 しかし空振り。残像を残す閃竜のスピードに土煙が一瞬で晴れ、首を逸らしたノエルの耳元を風切り音が通過する。



『残像と砂煙しか見えねぇw』『休憩タイム』『いいコンビネーション』『スイッチしたっす!』『見えてる奴もいるのな』『羨ましいわ』『視聴者に優しくねぇw』



 ――間髪入れず、東条はマスクも外し両腕に全武装を凝縮、真横からの爪撃を防ぐと同時に、解除、天使の輪の様な形状で頭上に展開し、半径数mを衝撃波で押し潰した。

 地盤がドーナツ型に凹むも、そこに生物の痕跡はなし。背後からの咬撃を東条が防ぎ、続く連撃をノエルが荊棘蔓で牽制。



『あ、カオナシの口元映った』『マスク取ったんじゃね』『本気じゃん』『千を出セェ』『千はどこだぁ』『ここで角度変えるAD優秀すぎ案件』『見せろや』



 一撃離脱を繰り返す凶刃に、東条とノエルは背中を合わせる。



『押されてるな』『こいつ一体で東京落ちたろ』『マジそれ』『怖すぎる』『マサあれ使えばいいのに』『雷纏うやつ?』『建御雷神?』『それ』『遊んでんだろ』『この状況で?』『んなバカな』



「……っ鬱陶しい!」

 攻撃を躱され続けていたノエルが、遂にキレた。同時に、魔力が爆発、一瞬にして周囲が満開の花畑に彩られる。


『っ』『うお』『綺麗〜』『ノエルか?』『大阪のやつだ』



「――『ウルフズベイン』」

「キュェ⁉︎」「オェ⁉︎」



『え?』『え?』『え?』『え?』



 突如ディノが倒れ盛大に花を散らし転げ回り、東条もその場に崩れ、必死に吐き気を堪え始めた。

「っおま、何した⁉︎うっぷ」

 瞳を潤ます東条の目に映るのは、怒りに笑うノエル。と、空気中を漂う極微細な紫色の粒子。何千、何万もの猛毒の花粉が、陽光を受けキラキラと輝いていた。



『え、なになに⁉︎』『何でカオナシも⁉︎』『ま、まさか……』『こいつ悪魔だ……』『味方諸共かよ……』『メンヘラこぇえ』『何がどうなってんだよ⁉︎誰か教えてくれよ⁉︎』『・ウルフズベイン 和名 トリカブト←致死性の猛毒植物』『……ヒェ』『ヒェ』『ヒェ』『ヒェ』『ヒェ』『ヒェ』



 ――手に土製の長剣、うねる数十の荊棘蔓を従え、ノエルは『阿修羅』を纏い地を跳ねた。



『近接戦闘来たこれ』『この状態でも動ける敵さんが怖い』『それな』『カオナシですらダウンしてるのに』『近縁種にディロフォサウルスって毒扱う恐竜がいる』『抗体持ってたのか』『モンスター何でも有りだな』



 ――ドンッ‼︎ドドンッ‼︎

 眼前で破れた空気の壁に、ノエルが目を見開く。咄嗟に長剣を構え緊急回避した。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『ソニックブーム⁉︎』『こいつマジか⁉︎』『生身の生物が音速超えやがった⁉︎』『カオナシもだろ』『あれは鎧着てんだろ』



 顔を顰めるノエルの頬には、横に引かれた朱色の一線。



『アアアア⁉︎』『嫌だァアアア⁉︎』『大丈夫ノエルたん⁉︎』『ノエルたんの血がぁああ⁉︎』『美しいご尊顔がぁあああ‼︎』『顔はダメだろうがヨォおお⁉︎』『よくもノエルたんの顔にィイ‼︎』『ぺろぺろ』『ぶっっっ殺す‼︎』『許さねぇ』『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』『立てやカオナシ‼︎』『オラ早く立て‼︎』『ノエルたんの盾になれ‼︎』『草』



 ――着地、と同時に振り下ろされた長剣が火花を散らす。

 右から襲う爪を剣で弾き、左の爪をしゃがんで潜り抜けざま、剣を振り抜くが既に敵はソニックブームを残し消えている。

 振り抜いたそのまま1回転、剣を斜めにし背後からの一撃を防ぎ、円を描く様に切り裂こうとするも、既にそこに敵はいない。



『ノエル剣も扱えたのか』『からぶってるけどな』



 背後右斜め下から爪、右から爪、左脚の蹴り、右から頭部への爪。左下から爪。いてっ。

 途轍もない速度で連続する金属音。止むことのない火花の雨。ソニックブームが地面を抉り飛ばし、爆音が空気を揺らす。コンマの中で繰り広げられる数手の撃ち合いは、はたから見れば銀色の残像である。



『……速すぎて剣線が見えねぇ』『どうなってんだこれ』『ノエル動いてんのこれ?』『車のタイヤ見てる時と同じ現象起きてる』『てか何で音速に反応できてんのこの幼女?』



「……慣れた」



『は?』『へ?』『……マジで?』



 ノエルは上半身を逸らし爪を躱すと同時に、宙に生成された歪な木刀をもう片方の手で掴む。音速を超える竜の身体を完全に捉え、すれ違いざまその背に十字の傷を背負わせた。



『『『『『『うぉおおおおおおおおおお⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』』』』』』『かっっっっけぇええ‼︎』『有り得ないだろw』『人間業じゃねぇw』『二刀流』『化物だw』『これはアツすぎる』『いっっけェエエエエ‼︎』



 上からの爪撃を長剣で受け止め、右からの爪をしゃがんで躱す、と同時に長剣をそのまま引き下ろし胸部を袈裟にぶった斬り、長剣の刃を返し、刀と並行に構える。左斜め下から一気に振り抜き、腹部に綺麗な2本線を描いた。



『⁉︎』『敵吹っ飛んだぞ⁉︎』『なんも見えなかった‼︎』『1級‼︎』『……ガード、回避、胸部に斬撃、刀を平行に構えて腹を一閃、……だと思う。正直目で追えなかった』『1級すら置き去りにするノエルたん』『ノエルたん最強』『ノエルたん最強』『ノエルたん最強』



 身体に見合わない得物を肩に担ぎ、悠々と歩くノエル。



『w』『w』『怖いてw』『貫禄が凄いw』『マサと一緒にいるし、強いのは知ってたけど……』『正直ここまでとは思ってなかったよな』『これファン増えたろ』『間違いない』『今まで戦闘シーンはマサにフォーカスしてたからな』『ワンチャンマサより強いあるぞ』『否定出来ないのが恐ろしい』『惚れたわ』『それな』『これはしょうがない』『あ、ディノ逃げた』『逃げ足も速いw』



「ふぅ、疲れた」



『お疲れ様』『お疲れ様』『乙』『乙』『追わないの?』『追わなくていいの?』『ん?』『何の音?』『なんかエグい音したぞ』『木が飛んでる』『マサか?』『そっち映してくれ〜!』『見てぇ‼︎』『あれに追いつくってことは』『雷装だな』『音エッグいw』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『何か飛んできたぞ⁉︎』『何だ⁉︎』『映してくれ‼︎』『おい上!』『ん?』『ん?』『カオナシか?』『バリバリしとる』



「スぅぅぅ――シィィィサァアアアアアアッッッ‼︎‼︎‼︎」



『っ』『っ』『声でっか』『何だ?』『⁉︎』『結界?』『何か閉じ込めたのか?』『……何あれ』



 東条の纏っていた雷装が剥がれ落ち、現れた1本の漆黒の直刀へと吸い込まれてゆく。

 剥き出しの刀身からは雷撃が迸り、周囲に飛んでいるモンスターを炎上させる。



『……』『(無言で逃げる音)』『……俺でも分かる。あれはヤバい』『ノエルそんな近くいて大丈夫?』『え、ちょ、』『逃げようノエルたん⁉︎』『あれヤバいって⁉︎』『いやァアアア⁉︎』



「『――布都御魂――』」



『ちょまっ』『待っ』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『AD死んだ?w』『電気にやられたかw』『おーい』『おーい』『お、映った』『おっふ』『いきなりノエルたんドアップ』『眼福です』『これで飯食える』『焼け野原じゃねぇかw』『えっぐいw』



 ――「飲み」

「何これ、ポーション?」

「ノエル水」

「犯罪臭増すからやめろ」



『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』『ゴクゴク』



「……今、マサの中にノエルがいる」

「……お前マジでやめろ」



『俺の中にノエルが……』『俺がノエルを産む』『いいや俺が産む』『お前ら捕まれ』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る