投稿 3



 ――先頭のボスシーサーの背に跨る2人は、50匹の群れを率いて、現在1直線で沖縄を南下していた。

「……血の匂い」



『滾るぜ』『俺の拳が血を求めている』『カオナシそこ代われ』



 ――「じゃあマサ、ノエルから10m以上離れちゃダメ」

「え、……何、メンヘラ?」

「ノエルは案外独占欲強い」



『っ⁉︎』『⁉︎』『新事実』『ノエルたんメンヘラだった』『推せる』『これは推せる』



「異性と話すの禁止。SNS禁止。連絡先はノエル以外消す。5分ごとに行動報告。GPS埋め込む。部屋に監禁する。約束破ったら世界壊す」

「バチくそメンヘラじゃねぇか⁉︎」



『草』『w』『バチくそメンヘラだったw』『想像以上にヘラってたw』



 ――「これも全部、マサを想ってのことなんだよ?」

「さ、流石に監禁はちょっと、」

「何で?ノエルが養うから大丈夫だよ?お世話も全部ノエルがしてあげる」

「それは有難いんですけど、外には出たいというか……」

「っどうして⁉︎ノエルのこと嫌いになった⁉︎分かった!他の女に会いに行くんだ‼︎ノエルのこと捨てるんだ‼︎もうマジ無理天変地異起こそ」



『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『●REC』『メンヘラに興奮する民が湧いてる』『おい誰かバルサン持ってこい』『変態しかいねぇw』



 ――大量のヴェロキラプトルに囲まれているのを目に、2人は真顔になった。

「……マサのせい」

「ノエルが笑わせるから」

「マサの性癖が歪んでるから」

「お前が可愛過ぎるのが悪い」



『それはそう』『カオナシ分かってる』『可愛すぎるのが悪い』『それな』『数ヤバ』『バカだ』『漫才してるからw』



 ――牙を剥き散開するシーサーに合わせ、東条とノエルも地面を蹴り、一直線でラプトルの群れに突っ込む。



『ッ』『行くぜ野郎共‼︎』『蹂躙の時間だ』



「よぉし!――ッ昂ってきたァア‼︎」



『『『『『イェアァアアアアアアア‼︎』』』』』



「グギュ⁉︎アギャ⁉︎グギ⁉︎ギッ⁉︎ゲッ⁉︎ガッ⁉︎グッ⁉︎ゴッ⁉︎グキャ⁉︎ギャゲ⁉︎ベギョ⁉︎キョベゴギゲゴギュバガキャゲブゲロボエドブシャバルガジュマルミジュマル⁉︎」



『オェえええ』『おロロロロ』『ゲェええ』『肉片がカメラにっ』『ウプっ、俺ギブっ』『ちょっとトイレっ』『なんかもう慣れてきたな』『グロ耐性ついてきてる奴おるて』『ほんとにこれモザイクなしでいいのかよ』『今視聴者何人よ』『1億』『w』『日本中で悲鳴が聞こえるw』

『もう終わりかね』『ほんまに蹂躙』『拍子抜けだな』



 ――瞬間、東条は首を傾ける。前方から放たれたレーザーが頬を掠め、顔面部分の漆黒が数枚弾けた。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『何だ⁉︎』『レーザー⁉︎』『違う、見ろ‼︎水だ‼︎』



 ノエルが森の奥に向かって大弓を3本放つ。しかしトレントを焼き倒し突っ込んできた巨体に、諸共全て燃やされてしまった。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『今度は何⁉︎』



 全身を轟々と炎上させる巨竜の後ろから、青い鱗を反射させ、更に一回りデカい竜が姿を表す。



『……』『……』『‥‥今頭の中でジュラシックパークの音楽流れてんの俺だけ?』『同じく』『同じく』『……スピノサウルス』『……T・REX』『カッケェ……』



 ――「……ま、そうこなくちゃつまらねぇわな」

「合わせて」

「お前が合わせろ」



『こいつらw』『何でこの状況でw』



 ――「ゴォオオオアアアッッ‼︎」「キュロロロロロロッッ‼︎」

 T−REXの頭突きと東条の拳がぶつかり、スピノの尾とノエルの蹴りがぶつかる。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』



 よろめくT−REX。右腕の装甲が消し飛んだ東条。スピノが尾でノエルの足を絡め取り、地面に叩きつけ――

 東条が地面に漆黒を展開、衝撃を全て吸収。ノエルがcellを発動。周囲の大地が剣山と化し2匹に襲い掛かる。



『速い速い⁉︎』『展開に追い付けないっ』『切り抜き確定』『キタキタキタキタァアアア‼︎』『ウッヒョォオオ‼︎』



 風景を消し飛ばす爆炎に、2人の眼前が赤一色となる。



『アッツ⁉︎』『熱い熱い⁉︎』



 T−REXのどてっ腹に、ロケット砲の如く飛び出した東条の飛び蹴りが炸裂した。



『っ⁉︎』『どっから出てきた⁉︎w』『あの炎を突っ切ったのか⁉︎』『いや、マサの黒いやつじゃね』『ティラノ吹っ飛んだw』『エグい音したぞ』『これは痛い』



 着地寸前の東「キョロロロッッ‼︎」「っ」

 条をスピノが前足で地面に叩き落とし、押し込み、大地が放射状にひび割れる。顎を大きく開くスピ「っギョェ⁉︎」

 ノの首にノエルが踵落としを叩き込む。上くの字に曲がったスピノから放たれたレーザーが雲を貫いた。続く前足の下からの衝撃波にスピノの体勢が崩れる。



『笑いが止まらない』『人って興奮すると笑うんだな』『どうりでカオナシいつも笑ってるわけだ』『このダブルバトルアツすぎるって!』『互いに負けてないのがまたいい』『この2人息合いすぎだろ』



 直後、大跳躍していたT−REXが爆風で推進力を生み出し、巨大な火炎弾となって天から降ってきた。東条はノエルの前に立ち、全力の防御を展開、受け止める。

 ――刹那、

「っなッ⁉︎――¬「⁉︎クっ――」

 大――爆――発。



『⁉︎』『うっ⁉︎』『ポリゴンショック⁉︎』『目が!目がぁ⁉︎』『おいカメラ大丈夫か⁉︎』『カメラ‼︎』『AD !』『あ、直った』『どんな熱量だよ』『見ろよ、森が』『エッグ……』



「――っだはっ、ありゃぁヤベェ!」

「けほっ、……相性わる」



『ほっ』『ほっ』『ほっ』



 無傷のノエルとは反対に、東条の身体には少なくない火傷痕が刻まれていた。背負っていたリュックもボロボロに消し飛んでいる。



『うわっ』『これ重症だろ』『何で笑ってんだこの変態』『屁でもねぇらしいぞw』『どうやったら死ぬんだよこいつw』『もう不死身だろ』『もう不死のcellって言われた方が納得できる』



 ――『ビースト』の漆黒の身体に、白い模様が浮かび上がる。

 ノエルの髪がブワッと踊り、(目だけ加工され)周囲にバチバチと白雷が瞬く。

 名称を、――身体強化『阿修羅』



『は?』『は?』『何これ』『何これ』『何これ⁉︎』『新技⁉︎』『でもマサって無属性だよな』『じゃあ身体強化⁉︎』『これが⁉︎』『バカカッケェ』『カッコよ⁉︎www』『スーパーサイヤ人じゃん』『それだ』『それだ』『それだ』



 静寂の隙間を叩く軽い音。砂煙を揺らし、東条とノエルの姿が掻き消えた。



『……』『……』『……』『……見えた人挙手』『……』『……』『……』『……』『……』『えー、後でスローの切り抜きお願いします』



 東条がビーストを解除。代わりにT−REXが巨大な漆黒の球体に閉じ込められた。



『もう何が起こってるか分からん』『静かに見守ろう』



 ――「『芽骨 狂乱開花』」



『……スピノエグい死に方したぞ』『死んだ』『死んだな』『これは死んだ』『技名カッコよ』



 ――T−REXは脚を曲げ、次の瞬間全力で真上に跳躍した。そのまま爆発を利用し、更に上空へと飛んでゆく。



『逃げた』『逃げたな』『やーいやーい』『卑怯者ー!』『逃げるな卑怯者ー!』『……ん?』『おい、』『おいおいおい』『お前が煽るから‼︎』『早く謝れ‼︎』『ごめんなさいごめんなさい‼︎』



 赤く染まる空を見上げながら、東条は右腕から左足にかけて、力の通り道に顔以外の全漆黒を集結させる。



『逃げろ2人とも!』『あれはヤバいって‼︎』『隕石だろもう⁉︎』



 漆黒の腕に、流れ込むように纏わりついてゆく土。拳の直径が数100mを超えた所で、ノエルの額にビキビキと血管が浮かび上がる。

 圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化、圧縮、硬質化――

 尋常でない圧力をかけられた拳は、その体積を1/100まで減らし、変色。内部で生じる熱と吸収が同時に作用し、所々が結晶化を始める。



『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『もう俺何も言わん』『ダイヤモンド……』『欲しい』



 完成する、銅色に輝き、ダイヤモンドを散りばめた金剛のガントレット。

 東条が右腕を一旦地面に下ろすと、それだけで足元が放射状にひび割れた。



『かっっっっこよ⁉︎』『……え』『ちょっと待て』『まさか』『正面から?』『んなバカな』



「離れてな」

「ん」

 太陽が落ちて来ていると錯覚する程の熱量を肌に感じながら、東条は腰を落とし、身体を180°捻る。爆発的に膨れ上がり、バチバチと明滅する魔力。



『あ、はい。やる気ですこの人』『少しでも常識的な考えをした私がバカでした』『こんな映画なかったっけ』『アルマゲドン』『それだ』



「『――天攘擽隕 アルバトロス』」



『『『『『『――ッッッッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』』』』』』『目がぁ⁉︎』『耳がぁ⁉︎』



 ――刹那、音が消えた。

 インパクトの衝撃が1点に収束し、瞬間、爆ぜる。

 ノエルが衝撃波に背中を押され吹っ飛ぶ。

 大地が捲れ、トレントが炎上し空を飛ぶ。

 衝撃波が森を呑み込み、根こそぎ破壊。

 大きなキノコ雲が打ち上がった。


 パラパラと土塊が舞う中、爆心地に佇む1つの影。

 武装を解いた東条は、遠くの雲に出来た大穴を見上げ、

「快適な空の旅を」

 清々しく笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る