21話

 


「……眩しぃ、」


「「「「っ」」」」


 上半身をむくりと起こした佐藤に、葵獅と凛、その他大勢が飛びついた。


「っぐえ⁉︎え⁉︎葵獅さ、葵獅さんじゃない⁉︎誰ですかあなた⁉︎ケホっケホッ」


「俺だ」


「え、でも、なんか毛深い。皆さんも、どうして泣いてるんですか?――ッうわちょっ」


「……よく、よく帰って来てくれたっ」


「……」


 いきなり葵獅に抱きしめられ狼狽える佐藤は、立てかけられた鏡を見て驚く。


 そこに写るのは、記憶している物とは全く別の自分。弱々しく痩せこけた、自分の姿だった。


 それとなく状況を察した佐藤は、点滴の刺さった自分の腕を見る。


「……私は、長い間眠っていたのでしょうか?」


「……ああ。半年だ」


「そんなに、……」


 佐藤は腰を曲げ、頭を下げる。


「皆さん心配かけたようで、すみません」


「何言ってんだいっ、あんたのおかげで私たちは今も生きてんだよっ」「そうだぜ佐藤さん!顔上げてくれ!」「おい皆!佐藤さんが目ぇ覚ましたぞ!」「あ⁉︎」「嘘っ」「うぇ〜ん」「おはようさん」「ほっほっ、久しぶりじゃの」


 寝起きには騒がしい周りに、佐藤は苦笑する。


「はは、お久しぶりです、紗命さん、若葉さん。……皆さん無事ということは、あのモンスターからは逃げ切れたのでしょうか?」


「お主の言うモンスターとは、屋上の化物で間違いないか?」


「は、はい」


「ならばそうじゃな。あの時点で生き残っていた者は全員無事じゃ。葵獅殿が、『佐藤が目を覚ますまで、絶対に誰も欠けさせない』と頑張ってくれてのぉ」


「……当然だ」


 頷く葵獅に、紗命が微笑む。


「……やけどその口ぶり、やっぱしうちらを飛ばしたのは、佐藤はんなんやね?」


 佐藤は葵獅に背中を支えられ、ゆっくり座椅子にもたれる。


「……そう、ですね。今なら分かります。……『停止』の力はただのついでみたいな物。私の能力は、……その、何て言うか、」


「『転移』でしょう?」


 壁に寄りかかり、感動の再会を眺めていた藜が口を開く。


「あ、あなたは?」


「申し遅れました。私藜という者です」


「?」


「お前を治してくれた方だ」


「えっ、あ、有難うございます!」


 急いで頭を下げる佐藤に、藜はニコニコと微笑む。


「じゃ、じゃあ、お医者様ということでしょうか?」


「ん〜、まぁそんなところです。気にせずいきましょう」


「は、はあ」


「「「「「………」」」」」


 ゴクゴクと水を飲む佐藤から目を逸らし、藜は椅子に腰を下ろす。


「佐藤さんも目を覚ましたことですし、私が来た経緯を話しますね」


「あ、ああ。頼む」


「私の部下の友達にもね、『転移』の覚醒者がいるんですけど、あ、覚醒者ってのは魔法とは別の異能を扱える人間のことです。まぁ、ここらへんの知識は後で国から教えてもらって下さい。皆さんが情報から隔絶されている間に、一般常識も結構変わっちゃってるんで」


「……分かった」


「それでその子が言うには、『転移』ってのはジャンプの直前、座標を決めなきゃいけないみたいなんですよ。空間を固定するその副次効果として、物体を『停止』させることが出来るんですけど、本来これは身体に負担がかかりすぎるので、転移覚醒者は誰もやろうとしないです。鼻血がドバーなるらしいです」


 話を聞く佐藤は思い当たる節が多過ぎて頷く。


「その話を聞いた時、ふ、とマサの記お、話を思い出しましてね。死体の数とかその他諸々不可解でしたし、もしやと思って探してたわけです」


 佐藤が首を傾げ、葵獅に尋ねる。


「そもそも、ここって何処なんですか?」


「北海道だ」


「北海道⁉︎」


「出来ればもう少し快適な場所に飛ばして欲しかった」


「す、すみません。……あ、あと、マサというのは?」


「東条だ。あいつは生きてるぞ」


「っ⁉︎」


 今日1番の驚愕を浮かべ、水を詰まらせ咽せる。


「あのっ、モンスターをっ倒したんですか⁉︎ゲホ、」


「ああ。本当に凄い奴だよ」


 紅が彼にスマホを渡し、画面の中で動く東条に佐藤が胸を撫で下ろす。


「……良かった。……正直、何で紗命さんがその話をして来ないのか不思議だったんです。後で殺されるのかと」


「ふふふ、冗談を言えるくらいには回復したってことでええ?なら始めるけど?」


「もうちょっと待ってくれると助かります」


「ふふ、」


「あはは」


 笑い合う2人を前に、藜は達成感に満ちた顔で天を仰ぐ。


「これで俺の予想は正しかったと証明された。マサの喜ぶ顔が見れる。ククク」


「……藜さんは何故そんな労力を俺達に?東条に頼まれたわけでもないんだろ?」


 葵獅の疑問符を藜は笑う。


「言ったじゃないですか。マサのマブダチだからですよ。マブダチならこれくらいするでしょ」


「……(そうなのか?)」


 藜は白杖をつき、立ち上がる。


「よし、それじゃ、行きましょうか」


「?何処にだ?」


「本州ですよ」


「……いや、流石に今日は無理だ。あと数ヶ月はかかる。……そうだ、何度も図々しくてすまないが、紗命と佐藤、非戦闘員だけでも連れてってもらうことは出来ないか?」


「……葵はん、」


「お前はずっと東条に会いたがっていたからな」


「葵獅さん、」


 佐藤が首を振る。


「あと少しで私も『転移』を使えるようになると思います。その時もう1度使って」


「お言葉ですけど、」


 藜が口を挟む。


「その身体でまた超長距離転移を使えば、今度こそ死んじゃうよ?最低でもそこの筒香さんくらいの身体強度がないと、この距離は無理だろうね」


「……」


 俯く佐藤に、藜はポリポリと頬を掻く。


「いや、だからさ、俺が送るって」


「……は?」


 唖然とする皆を無視し、藜はいつの間にいた村長に笑いかける。


「村長さん、この村ごと運んじゃっても大丈夫?」


「ひょっひょ、願ってもないけどねぇ、そんなことが出来るのかい?」


「クク、……これでも日本最強の一角なんでねぇ」


「何を……ッ」


 瞬間、地響きを起こし、結界ごと村1つが地面を抉り空へと飛び出した。



 唖然とする村人を置き去りに、藜は家から出て流れる景色を眺める。


「ん〜、……やっぱ下で行くか。村長さーん、ちょっと気張ってねー」


「ひょっひょっ、何、をッ⁉︎」


「村長!」「大丈夫ですか村長!」


 海に突っ込んだ結界村が、白波を立てながら海底を突き進む。


「……あ、」


 藜がチョイチョイ、と葵獅を呼ぶ。


「……藜さん、あんたとんでもないな」


「クク、どうも」


「……紅さんに、貴方に俺達の経緯を話せって言われたんだが、」


「ん?別にいいよ、興味ないし。そんなことより筒香さん、俺ちょっと面白いこと思いついちゃったんだよね」


「……何だ?」


「……俺はあんたの大切な佐藤さんを救って、皆の傷を治して、安全な場所まで送ってる。よなぁ?」


「……タダじゃなかったのか?」


「ククっ、それは金の話だろ?タダより高い物は無いんだぜ?」


 不気味に笑う藜に、葵獅は溜息を吐く。


「……それで、俺に何をさせたいんだ?」


「クック、話が早くて助かる。これから宜しく頼むよ筒香さん」



 ――その日、青森県の港に丸々1つの村が打ち上がり、騒ぎになったとか。








〜後書き〜

はい。答え合わせ。

何で俺が6巻で、昔紗命と仲の良かっただけのポット出の女の子の過去を掘り下げまくったと思う?

彼女の、十五夜 紫苑の『転移』こそが、池袋組の謎を解くキーだったからさ。

東条の頭痛とか、1巻で死亡描写がないとか、1巻から何度も『座標』を強調したり、他にも色々あったと思うけど、1番のヒントは彼女の能力を東条とノエルが鍛えている時の会話かな。案外読み流しちゃった人多いんじゃないの?何読み流してんだぶっ飛ばすぞ。

気づいて俺に感想送ってきてくれた人は5人くらいだな。1巻でゴブリンキングが食ってたのが葵獅の片腕ってのを覚えててくれてる人もいて嬉しかったね。

んじゃこれからもrealをよろ。


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