20話



「「「「「「お疲れ様ですボス」」」」」」


「はいはいお疲れさん、これ仕舞っといて」


「うっす」


 大きなリュックを背負う大柄な部下にドロップアイテムを渡し、そのまま通り過ぎようとした藜は、腕を無くした女性組員を見て驚く。


「おいおい、お前、どうしたその腕?」


「っも、申し訳ございません、不覚をとりました。……如何様な処分も」


「ちょっとくすぐったいぞ」


「?っんぁ」


「なっ⁉︎」「嘘でしょ⁉︎」「……」


 藜の白杖が傷口に触れた瞬間、白い光と共に腕が再生。女性組員は驚いたようにグッパグッパと手を動かす。


 しかし彼女よりも驚いているのが、事情を知らない北海道組である。当然だ。今彼らの目の前で起きた事象は回復などではない。例えるならそれは、時間の巻き戻し。


「あ、ありがとうございます!」


「いいよいいよ。それよりお前ら筆頭がやられるって相当だろ?どんなモンスターだった?強かったか?録画したか?」


 勢いよく頭を下げる女性に、藜はウキウキと尋ねる。


「は、はい。こちらです」


「どれどれ、……顔イカつ。ハハっ紅お前苦戦してんじゃねぇか!」


「黙りな」


「それで?どの部位が残った?」


 尋ねる藜に、紅が2本のツノを投げ渡す。ちゃっかり炎オーガのも抜き取ってるあたり抜け目ない。


「上物じゃねぇか。これはいい武器になるぞ」


「モンスターオタクが」


 溜息を吐く紅は、口を挟む機会を失っていた葵獅に謝る。


「すまんな、」


「い、いや、構わない。モンスターの素材を集めているのか?」


「本州では既に素材の取引が行われているんですよ」


 問う葵獅に、藜が笑みを浮かべ歩み寄る。


「いや〜、会いたかったですよ。あなたは、筒香さんだ!それ獣化系ですか?カックイイ〜」


「あ、ああ。獣化系?」


「あなたは月島さん!若葉さん!皆さんご無事そうで良かった。マサもきっと喜ぶ」


 嬉しそうに握手して回る藜に、皆若干たじろいでしまう。そこで藜の目が1人の少女を捉える。


「っ!黄戸菊さんじゃあないですか!」


「……はぁい?」


「お噂はかねがね、世界1良い女だとか」


「……桐将が?」


「ええ、ええ、勿論。口を開けば紗命紗命と、まぁうるさいもんですよ?」


「……ふぅん」


「皆様方の話も全部マサから聞いたことですので、あまり警戒なさらないでください。私は彼のマブダチです。そう、マブダチです!」


 自分勝手に自己紹介を済ました藜に、葵獅が近寄る。


「それで、藜さん、突然で悪いがあなたに頼みがある」


「何でしょう?」


「先の回復能力、あれはまだ使えるか?」


「大丈夫ですよ。誰か治したい人でも?」


「ああ。ついて来てくれ」


 ――「地下に村とは、ファンタジーだねぇ」


 そうして案内された1室にて、藜は納得する。


 横たわり浅い呼吸を繰り返す彼は、部下の記憶で見た、マブダチと並び死線を潜り抜け続けた1人だ。


(……ククク、やっぱりねぇ)


「治せるか?」


「いけると思いますよ?」


 心底安心したように大きく息を吐く葵獅に、藜は優しく微笑む。


(眠り続けているってことは、許容外の反動を身体が受け付けていない証拠。癒着していない限りこの能力の条件下になる)


「ただ時間も経ってる。cellを暴発させた影響を完全に消すのは無理だろうねぇ」


「それでもこいつが目を覚ますのなら」


「了〜解」


 白杖から白い光が溢れ出す。


「この力に数億出すって人もいるんですからねぇ?」


「金なら俺が稼ぐ。必ず返す」


「ククク、気持ち良い人だ。そんなあなたに朗報です。マサの友人ということで、今回はタダにしてあげます」


「……良いのか?」


「男に二言無し、ですよ」


「感謝する」


 頭を下げる皆に、藜はクツクツと笑う。


「では、……特別大サービスです」


 白杖を両手で掴み、



「『リザレクション』」



 彼は軽く地面を叩いた。


 瞬間、村中を光が包み、数秒後、村中の怪我人が驚いたように立ち上がる。傷が癒え、血は止まり、欠損部位が復活。家の外では大騒ぎになっていた。


「……何が」


「特別大サービスです。……それよりほら、」


 藜は一息吐き、布団の上を顎で指す。



 そこには、


「……眩しぃ、」


「「「「っ」」」」


 上半身をむくりと起こした佐藤に、葵獅と凛、その他大勢が飛びついた。

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