19話

 


 葵獅宅にて。


 嘗ての仲間が有名になったと聞いて集まって来た池袋生存組が、1つのスマホを囲み笑い合う。


 ただ、その数は葵獅や紗命を含めても15人に満たず、どれだけの仲間が犠牲になったかが分かってしまう。


 しかし彼らは、疾うにそんな悲しみは乗り越えている。今更だ。


 凛が画面の中で眠そうに舟を漕ぐノエルをニマニマと眺める。


「あたしもうノエルちゃんのファンになっちゃった!この子可愛すぎ!」


「あんにゃろうこんな可愛い子と旅してんのかよ」「許せねぇ」「ロリコンが」「ぶっ飛ばしてやろうか」「やめなさいよみっともない」「ほんと男って」


 皆が夢中になるノエルを、1人親の仇の如く睨みつける紗命。そんな彼女を瀬良が笑う。


「紗命ー?顔怖いよー?」


「……ふふふ、ほんまに可愛いなぁ。つい見惚れてもうたわぁ」


「ほどほどにねー」


「……ふふふ」


「紗命お姉ちゃん、花も見たい」


「あら、堪忍なぁ。ここおいでぇ」


 間から顔を出す女児が、紗命の膝の上に座る。


 春野 花、東条と紗命に懐いていたよく出来た女児である。

 そんな花を困ったように追って来た女性、春野 蕾、母である。彼女の手には春野 蕣、ベビーが寝ている。春野家は1人も欠けずスクスクと育っていた。


「もう、ごめんなさいね紗命ちゃん」


「ええよええよ、気になるもんなぁ?」


「うん!これお兄ちゃん?何で顔隠してるの?」


「ほら、初めて会った時も布団で身体隠してたやろ?隠すの好きなんよぉ」


「変なの!」


「ふふふ、せやなぁ」


「わ、モンスター潰れた!アハハ」


(……この子の性癖歪まないか心配だわ)


 心配気に苦笑する瀬良の横では、キメラ戦を見ながら猛る葵獅と若葉。


「……ハハッ、これ程かっ」


「ほっほっ、こやつはいつも先を行くのぉ」


「見ろ翁、ここの動き、俺が教えた連撃だ」


「うむ。やはりこやつに武器は無理だな。振り回すしか能がない」


「ちょっとっ、勝手に戻さないでよ!」


 やいのやいのと盛り上がっていた、


 ――その時だった。



 ズゥゥウンッッ‼︎‼︎



「「「「「「「――ッ⁉︎」」」」」」


 突如響き渡った地鳴りに、村の全員が顔を上げ警戒態勢に入る。


「上か、全員武器を持って俺に続け」


「「「「おう」」」」


 半獣化した葵獅が、扉を開け外に出る。既に村の戦闘員達も準備に入っている。


「紅さん、手を貸してくれるか?」


「……ああ、構わないが(……この魔力)」


「?ついて来てくれ」


「……分かった。お前らもついて来い」


「「「「「「了解」」」」」」





 ――破壊の痕跡と血の匂いが残る赤煉瓦倉庫跡。……だった場所。


「おっとっと」


 バカデカいクレーターを作り着地した藜は、抉れた大地を見渡し白い息を吐く。


「興奮してちょっと吹っ飛ばしちゃったけど、……大丈夫だよな?」


 辺りに散らばる、オーガ達の血肉に集まって来ていたモンスターの死骸。中には見たことのない種類もいる。一応拾っておこう。汚な。


「お、こいつも新種じゃん。貰い〜」


 強モンスターの死体バーゲンセールにウキウキと歩き回っていた藜。


 そんな彼の感知に大勢の魔力が引っかかる。


「ん?」


 森から出て来たのは、


「……!紅じゃねぇか!よぉ‼︎」


「ハハっ、速すぎるだろう?」


「……彼が?」


 笑う紅に葵獅が尋ねる。


「ああ、私らのボスだ」


「……あれからまだ2時間も経っていないぞ。近くにいたのか?」


「東京だろうな」


「……あり得ないだろ」


 軽薄な笑みを浮かべ、モンスターの骨や皮をフワフワと浮かしながら歩いて来る男。ボスと呼ばれる彼の異様な威圧感に、その場の誰もが唾を飲み込んだ。

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