18話

 


 §



「…………やっぱ、アメリカかなぁ、」


「ボス、お電話です」


「はいはい、……もしもし?」


 執務室で書類を見ていた藜は、机に足を乗せたまま、秘書の女性から受話器を受け取る。


『お疲れ様です藜さん、見美です。いきなりの電話申し訳ありません』


「おお見美ちゃん!どうしたの?久しぶりだね〜」


『はい、お久しぶりです。早速ですが本題に入っても?』


「何だよ冷たいな〜、世間話くらいしようよ?」


『職務の途中ですので』


「ククク、分かったよ。それで話って?」


『今稼働している武器製造工場を一時的にストップします。その旨を伝えるためお電話しました』


「……クク、理由を聞いても?」


『メンテナンスです』


「全ての工場を?一斉に?」


『そうです』


「その間に入る加工依頼はどうする?」


『問題ありません。こちらで対処します』


「へぇ〜。……いつもはメンテンスも俺の下部組織に任せているのに、何で今回だけ国が?」


『現状の把握をあなた方にばかり任せていては、いざという時対処出来ませんので』


「なるほどねぇ。……これは要請かな?」


『命令です。質問は以上で宜しいでしょうか?』


「んー、あー待って待って、マサとノエルが持って帰ってきたアレ、俺が直接依頼されてんだけど」


『『白』のドロップアイテムですね』


「そそ。加工は後にするとして、分析と鑑定に回したいから返してくれない?」


『その必要はありません。メンテナンスが終わるまでこちらで厳重に保管します』


 藜の笑顔がピクリと動く。


「……共同運営とは言え、国がしているのは監視のみ。そこまで干渉してくるもんかねぇ?」


『共同運営である以上、依頼物は国の監視下にあるべきだと思いますが?』


「……ふ〜ん」


『質問は以上で宜しいでしょうか?』


「……あ、そうだ見美ちゃん」


『はい』


「マサも沖縄から帰って来たし、結構前には前代未聞の異常気象が起きたり、ドラゴンを見たなんて奴もいた。まったく信じられないけどさ〜、俺と国の間には情報共有の協力協定があるじゃん?

 ……ねぇ見美ちゃん、何か新しい情報ない?」


『……ありません。入り次第お伝えします』


「そっかぁ。おけ。俺からはもう無いよ」


『では』


「うん、身体には気をつけてね〜」


 ツーツーツー……


「……俺嫌われすぎじゃね?」


 受話器を置いた藜は背もたれを倒し、天井を眺めながらクツクツと笑う。


「……想定よりもだいぶ早いねぇ。総理も頑張ってるじゃねぇの」


「いかがいたしますか?」


「ん〜?別にどうもしない、けど」


 不敵に笑う藜はキャンディを口に放り込み、


「……ムカつくからちょっと邪魔しちゃおうかね」


 包み紙をクシャ、と丸めた。


に伝えろ、今まで以上に国の動向に気を配れってな。あと予備の工場を稼働しておけ。メディアは、……いや、この際利用するか。真狐も呼び戻せ。あぁそれと、精神攻撃に耐性がねぇ組員はあのの監視から引かせろ。あれは想像以上にヤベェ、俺が直接会う」


「承知いたしました」


(……さてさて、)


 藜はギィ、ギィ、と椅子を揺らしながら考える。


(……あとは、『使徒』のアイテムをどうするか。国がノエルに組する者にこれ以上力を与えないために工場を止めたのは明白。調査員の仕分けが始まるな。……そういや面白い子いたな)


「なぁお前、1級の、あのー何つったっけ?イケメンの子のアドレス知ってる?」


「イケメン?あと知ってるわけなくないですか?」


「だぁ〜思い出せねぇ。ん?」


 とそこで、藜のプライベート用スマホに連絡が入る。


「お、紅じゃん。…………」


「……ボス?」


 固まる藜の口角が、みるみる上がってゆく。


「ククっ、クハハッ!お手柄だぜ紅!」


 彼はスマホをポケットに突っ込み、白杖をついて立ち上がる。


「お出かけですか?」


「ああ、ちょっとな。厚手のコートを頼む」


「夏ですが?」


「いいからいいから」


 鏡の前で身嗜みを整えた藜は、秘書にロングコートを羽織らせてもらい、くるりと回る。


「どうだ?」


「はい、キまっています」


 サムズアップする秘書にサムズアップを返し、藜は窓を大きく開ける。


「玄関から出ては?」


「すぐに戻る。俺がいねぇ間は真狐に従え。じゃな‼︎」


 窓枠を蹴り天に昇ってゆく藜は、超加速し一瞬で雲の中に消えた。



 勝手なボスを見送った秘書は、


「…………はぁ、」


 部屋中に舞った書類を、溜息を吐きながら拾うのだった。




 §


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