14話
筒香?筒香と言ったか?そんな紅の疑問はしかし、雄叫びを上げ突撃してくる2体のオーガに遮られる。
もしこの男が自分の探している筒香なら、早くにしてこんな魔境からおさらば出来る。
「ハハッ!」
「む」
ゆっくりと構える葵獅の横を、テンションの上がった紅が途轍もない速度で通過、彼に飛び掛かろうとしていた雷オーガの顔面に飛び蹴りを食らわせ吹っ飛ばした。
バチバチと白い電光を纏いながら、紅は真っ赤な髪を掻き上げる。
「筒香殿、少々尋ねたいことがある。この後お時間宜しいか?」
「……構わないが、」「ゴビャ⁉︎ギ、ガァ⁉︎」
鋭利な獣爪、フサフサの黄毛、肉球。
獣然とした右腕で炎オーガの顔面を鷲掴みにする葵獅は、バタバタともがくそれを無視して不思議そうな顔をする。
「感謝する。では早々に方を付けよう」
「そのつもりだ」
陽炎を浮かべる葵獅。雷光を残し一瞬でその場から消える紅。
((……凄まじいな))
互いにその底知れぬ実力を見抜き、2人は軽く笑みを浮かべた。
「ゴロロァア‼︎」
「すまないが彼の実力が見たい。死んでくれ」
「ッオ、ゴ⁉︎」
掌打、貫手、連突き、手刀、崩拳。蹴りに蹴りを合わせ牽制、両側頭部に掌底、鼓膜を破り脳を揺らし、足払い、目の焦点も合わず転倒する雷オーガに向けて、天へと電撃を纏った拳を振りかぶり、
「『象』」
「ッッビャボ⁉︎」
追撃の下突き。
ズンッ!ズズンッ‼︎と地面が波状に割れ、段を作り陥没。拳と地面にプレスされた胸部は骨も肉も滅茶苦茶に潰され、その厚さを1/10にまで縮めた。
紅が余電の走る陥没地帯を登り、もう片方の戦闘に目を向けると、
「ゴ……ゴヒュ……ヒュ……――」
「……」
先と同じ体勢のままの彼が、丁度炭化させた炎オーガの頭部を握り潰すところだった。
「ハハハっ、間に合わなかったか」
紅は笑いながら、パチパチと帯電しているハイオーガの角を引っこ抜き、葵獅の元に歩いてゆく。
「やるな、筒香殿」
「速度はそちらの方が上だ。……速いな」
「ただの身体強化だよ。見たことないかい?」
「……俺は出来ないが、仲間が出来る」
「……へぇ」
紅は素直に驚く。
それすなわち、最上位強化魔法『阿修羅』を使える人間がここにもいるということだ。
電波と隔絶されたこの地で、独学でその境地に辿り着いたというなら、ポテンシャルは自分よりも遥か上。ボスと同等である。
「凄いね。……それで仲間ってのは、あれかい?」
「ああ」
部下6人を助けるように飛び回る、数10人の武器を持った人間達。その中でも一際動きが良いのが2人。
長槍を振り回し戦場を蹂躙する老爺と、腕にバンテージを巻いて機敏に駆ける女性。
「源さん先行きすぎ!この人達守らないと!」
「ほっほっ、大丈夫じゃろうて。その者達相当な使い手じゃ。片腕のおなごだけ守ってやれば、後は勝手に生き残、る!」
音を超える一突きは、同時に5体のオーガの頭部を吹き飛ばす。
槍の達人――若葉 源五郎
「もうっ、どいつもこいつもっ、あたしの周りには勝手な男しかいない!」
後ろから飛来する矢を首を逸して躱し、掴む。回転、矢をぶん投げ、放ったオーガの脳天にお返し。
飛び掛かってくる数匹のオーガを目に、ボクシングの構え。ステップ、通過すると同時に、彼女を囲んでいた全てのオーガの顔面が陥没した。恐ろしく速いパンチ。
プロボクサー。兼、葵獅の女――月島 凛
……そしてそんな彼らとは別に、葵獅と紅に向かって悠々と歩いて来るのが1人。
「……」
肩口で切り揃えた濡羽色の短髪。
はためくロングコートの下に覗く、所々破け、
まるで通学路を歩くように、血と屍の上を進む少女の異様さ。
しかしそんな彼女の周りには、彼女以上に異様な光景が広がっていた。
オーガの肌が焼け爛れ、ドロドロに溶け、痙攣し、泡を吹いて倒れ、自らの首を絞めもがき苦しみ、瓦礫に頭を打ち付け、持っている武器で己の心臓を貫き、狂った様に同士討ちを始めるオーガ達。
人と殺し合っている方がまだ健全と言えるその光景に、紅の口元が引き攣る。
(…………あれは、ヤバいな)
全力の警戒態勢に入った紅の周囲に、パチパチと電気が走り始める。それを見た葵獅が、1歩踏み出し2人の間に入った。
「……紗命、抑えろ」
「……あらぁ、堪忍なぁ。怖がらんでえぇよぉ」
天性の小悪魔。最強のヤンデレ――黄戸菊 紗命
花が咲くようにニッコリと笑う彼女に合わせ、戦場に残る全てのオーガが血を吹いて絶命した。
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