9話

 


 ――ステラとアルバが日本に降り立ち、3日。


 浴衣姿の2人は、互いに両手いっぱいのお土産を持ち旅館から出た。


 女将さん以外、見送りに付き添うのは日向だけだ。


「総理に挨拶はなさらないのですか?」


「いい。めんどいし」


 ダルそうにお土産を振るステラに、日向も困った顔をする。


「まぁMs.ステラはいいとして、アルバ様はどうしますか?」


「おい、」


「そうじゃなぁ、我もめんどいしいいかのぉ」


「おいっ」


「私としてはして欲しいのですが……。後で怒られそうで嫌ですし、」


「おいって⁉︎」


「はい?」


 ステラが日向の視界に入ろうとジャンプしながらキレる。


「お前俺の扱い雑になってないか⁉︎最初の敬意はどうした!」


「やだなぁ、今でも敬意マシマシですよ?」


「どこがだ!」


 姉と妹の様な2人の言い合いに、女将とアルバが笑う。


「カッカッカ!ではそろそろ行くかの」


「クソっ、でも楽しかったから許してやるぞ!」


「はあ、……(結構素直だから可愛いんだよなぁ)」


 日向はプンスカと指差すステラに内心で微笑む。


 とそこで、


「そうだ、ペンあるか?」


「え?ああはい」


「ちょっと待ってろ」


 お土産の包装をビリビリと破ったステラが、包装紙の裏に何かを殴り書いてゆく。



 数秒後、


「……おし、これやる。お前のおかげでこの3日間楽しかったからな。そのお礼だ」


「お礼ならチップで1000万くらい貰いましたけど。……これは?」


 数字がびっしりと書かれた雑紙を、日向は不思議そうに見る。


「dvmと電子を結合する化学式と、その結合電磁波を発散するためのシステム構築式だ。まぁ要するに、同周波数の魔素がありゃどこでも繋がる電話の作り方だな」




「……はぃ?」


 さも当然かのように言われた言葉に、日向が固まる。


 彼女は生粋の文系であり、理系科目には精通していなかったが、この、今自分の手の中にある雑紙がどれだけヤバい物かくらいは簡単に想像がついた。


 一言で表すならそれは、革命だ。


「っちょっと待ってください⁉︎私が言うのもなんですけど、こんなの勝手に渡したりして、また大統領に怒られたりしませんか⁉︎」


 昨日、アルバがアメリカの有力な覚醒者を自慢したことをステラが大統領にチクり、こっぴどく叱られたばかりなのだ。

 日向にも他言無用と圧が掛けられたのは言うまでもない。もうあんな思いは御免なのだ。


 しかしステラはそんな彼女を鼻で笑う。


「知るか。それを発明したのは俺だ。特許も何もかも、全て俺に権利がある」


「発、えぇ?」


「ガハハ!いい顔だ!俺を敬い恐れ平伏しろ!、アルバ!」


 瞬間、アルバが純白のドラゴンに姿を変え、駐車場の殆どがその巨体で埋まる。


 日向はステラに手を伸ばしたまま、女将さんはニコニコしたまま、目の前の光景に顎が外れ硬直する。


「ではの、世話になった」


「じゃあなヒナタ!また会おうぜ‼︎」


「「――ッ」」


 突風を巻き起こし、一瞬で天に昇る龍。





「……」

「……」


 雲に空いた穴を見上げ、取り残された2人は少しの間放心する。


「……はっ」


 先に我に返った日向が、自分の顎を戻してから女将さんの顎を戻す。


「……女将さん、この後少々お時間よろしいでしょうか?」


 日向は口をパクパクと動かす彼女に、涙を浮かべながらぎこちなく微笑んだ。



 その後日向が提出した雑紙のせいで、上層部と研究支部が大騒ぎになったのは想像に難くない。


 1部のSNSでは、偶然撮影された巨大ドラゴンの影が話題になったとかなんとか。



 我道は数日寝込んだらしい。

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