火水相剋





 ――深夜、アルバは1人飛び、東京の山手線内、霧の中へとその身を降ろした。




「……」

「……」




 巨大な白象と白龍が暗闇の中、真っ向から向かい合う。


「……」


「そう睨むな。貴様は『水』だな。我を嫌いなわけだ。そして『大地』と最も相性が良い。成程ここに居座るわけだ」


「――ファァアン――」


「ふむ、美しい声だ。……だが、それ以上はやめておけ」


 互いの魔力が衝突し、本州全体に有史以来最大規模の暴風雨が吹き荒れる。

 突然の前代未聞の悪天候に、気象庁では蜂の巣をつついた様な騒ぎになっていた。


「別に敵対する気はないと言っておろう。そも、『開闢の王』と『調停者』が争うのは禁忌。主らは星の意志じゃろう、私情で動くのは我が許さん」



『……私情でしか動いていない王が何をぬかす』



 弦楽器の様な美しい女性の声で、象は話す。


「世界の理に反しない限り、我は何も言わんさ。今回も挨拶に来ただけだ」


『……に手を出したら許さない』


「カッカッカ!随分と入れ込んでおるのぉ」


『あの子は今、迷い、成長している途中。己の道を探っている』


「貴様が何に愛着を持とうと構わんが、……くれぐれも『使徒』の邪魔をするような真似はするなよ?『大地』が死のうと、それもまた理じゃ」


『愚問。それも試練、あの子に必要なことだ』


「なら良し。我から言うことは何もない」


『ならば疾く往ね』


「……冷たいのぉ」


 アルバは大きな翼を広げ、雨露を吹き飛ばす。


「ではの、いつかこっちにも遊びに来い。ここには無い植物がたくさん生えとるぞ。美味いかは知らんがな」


『あの子がそれを選ぶなら』




「カッカッカッ!、――我はアルバ、聖炎の龍王よ!」




『……『水の調停者』……あの子は私を、『ベヒモス』と呼んだ』




「ベヒモス、覚えておこう!」



 雨雲を突き破り一瞬で天へと昇った龍を、


 ベヒモスは睨みつけ、背を向けた。

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