7話 人には2つの道が残っている。逃げるか、……戦うかだ。

 


 ――そうしてTVの前に座ったステラとアルバの2人は今、日本で最も再生されている動画を目に、腹を抱えて笑っていた。


「いひっ、ガハハハハ⁉︎こいつ、もろ『王』じゃねぇか⁉︎何やってんだこいつ⁉︎面白すぎんだろ‼︎」


「カッカッカ!まさか人を真似て動画投稿をしているとは思わなんだ!……しかし面白そうじゃな。我もやろうかの」


「バカが、テメェは存在自体が禁忌なんだよ」


「ちぇ、つまらん」


「しっかし何だこの男は?隣にいるのがどんな化物か分かってんのか?」


「……カッカッカ、」


 楽しそうな2人とは他所に、


「……」

「……」

「……」


 後ろで見ていた日本勢の心境は、それどころではなかった。


 当然だ。

 日本最強の一角が、この国に混乱を招いた元凶だったのだから。


 我道は遂にテーブルに片肘をつき、頭を抱えた。


「……信じたくはない。信じたくはないが、……しかし、」


 隣に立つ亜門が牙を剥き、俯く。


「……大阪の1件は、こういうことだったのですね」


「……」




 今は大規模な花畑と化した難波。


 そこでは、ある1つの物品が押収されていた。


 瓦礫、死体撤去をしていた最中、1人の清掃員が人型の死体から何かを発見した。


 それはイヤホン型の無線。


 録音されていたのは、持ち主が最後に発した言葉。



『お前、人じゃないのか?』


『ケヒっ、ゲひひ、こりゃスゲェ!傑作や!人間のふりしたモンスターが配信者してるなんてよぉ!』




 一見意味の分からない言葉だが、軍部は一抹の不安からこの物品を押収し発見者に口止めをした。


 その予感が今ここで、最悪の形で意味を持ってしまったのだ。




「……亜門、」


「……はい。既に彦根を中心に部隊を編成中です」


「っ総理っ」


「見美、お前はこの部隊から外れろ。それと千軸も外す。彼らに情を持つ者は、いざという時判断が鈍る可能性がある」


「っまだ彼女が国に害のある存在と、」


「っもう、……なっているだろう?外を見ろ、国民を見ろ、どうなっている?」


「っ……」


 見美は唇を噛み締め俯く。


「別にいきなり敵対する気はない。2人が国にもたらした利も多々ある。

 ……ただ、話を聞かなければならないだけだ。

 そして彼女が我々の要求に簡単に応じるとは思わない。こちらも、然るべき準備を整えなければならない。

 それまでは今まで通りだ」


「……」「……」


 沈鬱とした日本勢。



 ……とは裏腹に、ニヤけながらソファに背を預け、腕で目を覆うステラ。


 アルバはTVに目を向けたまま、彼女に尋ねる。


「どうしようかの、今から会いに行くか?」


「………………いや、今じゃねぇな」


「……何かか?」



「クク、別に、……ただ、そっちの方が面白くなる」



 ステラは小さく笑い、3人に目を向ける。


「おいお前ら」


「?何だ、」


「この国に『開闢の使徒』が現れたのは何回だ?」


 我道は逢魔とキメラを思い出す。

 いずれも国の危機であったことは間違いない。


「……2回だな」


「クハっ、この短期間で2回か」


「多いのか?」


「多すぎるな。俺達の話を聞いたお前らなら、何でそんなことになってるのか想像つくよな?」





「…………彼女を、狙って来ているのか」





Bull's eye大正解〜!」


 手を広げるステラに、我道の表情が覚悟を持った。


「……決まりだな」


「っ、父さ」


「亜門、彦根は?」


「間も無く到着するかと」


「私の側近のみを集めろ。官僚の中にも信頼に足らない者がいる。情報漏洩は絶対に避けなければならない」


「了解」


「っ……私は、」


 俯く見美から彼は、父ではなく、総理として目を背ける。


「見美秘書は2人を宿へ案内してくれ。御二方もそれでよろしいか?」


「ああ、俺はいいぜ?最高級を頼むぜ?おいヒナタ、Switch持ってこい」


「我も構わんぞ」


「すまないな。ゆっくり休んでくれ。では失礼する」


 去ってゆく我道を見届け、アルバはステラに耳打ちする。


「何故最後に不安を煽るようなことを言ったのじゃ?可哀想に(ボソ)」


「……日本とは仲良くする、だが、





 ……俺はアメリカの人間。それだけさ」





 曇天の下、傲慢は不敵に笑う。

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