6話
我道は冷や汗を拭き、心の中で重い重い溜息を吐いた。
「……ステラ殿もアルバ殿も、何故そのような秘密を簡単に打ち明けてくれるのだ?我々はまだ何も開示していないというのに」
能力の開示も、今の話も、国家機密なんてレベルじゃないだろう。
アメリカは何を考えているんだ?協力と称した支配関係を?いや、そもそもアルバ殿がアメリカの指示に従うような方だとは考え辛い。
それに元大統領とは長い付き合いだ。あれがそんなことを言ってくるとは思えない。
今の数分で少し老けた我道に、しかし2人は飄々と答える。
「別に隠すことでもねぇだろ」
「じゃな。打ち明けたところでお主らに何かできるわけでもなかろうて」
「それにどうせ情報共有するんだ。遅いか早いかの問題だろ」
「……確かにな」
絶対の自信と優位性、それ故の自由。
最早自分達がこの2人相手に交渉を行うことは不可能だ。
「……して、目的は何だ?」
疲れ切った我道に、ステラが目をパチクリとする。
「あ?だから別に無いって。散歩だっつったろ」
「……本当に、ただ遊びに?」
「何度も言わせんな」
だとしたらこの2人は勝手に他国に来た挙句、自国の機密情報を国の認可なしにベラベラ喋っていることになるのだが、……いや、仮にも権力者なのだろう?そんなこといくらなんでも……。
相手の思考が読めず唸る我道。
とそこでアルバの懐で携帯が鳴る。
「おっと失礼。……Frederickじゃ」
「チッ」
その名に、ステラが舌打ちし、我道が驚きに顔を上げる。
「どうする?出るか?」
「着拒しろ着拒」
「い、いや待ってくれ、Frederickとは、アメリカ大統領のか?」
「そうじゃ。勝手に買ったスマホなんじゃが、バレてしもうたか」
何を言っているんだこの神は?そもそも何故他国から電波が通じている?いや今はそれよりも。
「アルバ殿、私が出ても?」
「おお、助かる。怒られるのは嫌じゃ」
我道はスマホを受け取り、通話ボタンを押す。
『っMr.Alba, where are you?』
怒りを我慢しているような、野太いドスの効いた声が漏れてくる。
懐かしいその声音に、我道の口角が少しだけ上がった。
「……It's been a long time, Frederick?」
『?Who are…… No, wait, ……is that voice ……Eijiro?』
「Glad to see you're doing well」
『ッEijiro!?Eijiro!!Why are you there!? No, more importantly, you're safe! Thank God!!』
大声で号泣する米大統領に、我道はスマホを少しだけ耳から離す。
「That's what we want to hear.いきなり私の家の前に降りてきたと思ったら、パラレルワールドの創生の話を聞かされたぞ」
『(ゴンッ!)』
スマホから机に頭を打ち付ける音が響く。あちらも何かと大変なようだ。
『If Mr. Alba is there,ステラもいるな?』
「Yes.……お前のことが嫌いらしい。隠れているぞ」
我道は日向の背中に隠れるステラをチラリと見る。
『Would you put her on?』
「だそうだ」
我道は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるステラに携帯を渡す。
「……It's me」
『Hahaha! よくも俺の番号を着信拒否にしてくれたな?……何をしている?』
「Walking」
『Walking!トップシークレットを連れて地球の裏まで散歩か、随分とスリリングなピクニックだな?』
「Shut up.お前らに俺の行動を制限する権利はない」
『国としてお前を監視し、守る義務がある』
「……チッ、余計なお世話だ(ボソ)」
『……アルバ殿とまともに会話出来るのはお前くらいなんだ。どうせ今回も彼が勝手に行ったことなんだろうが、その場にいたならせめて一報くらいは入れてくれ。彼を止められないことなど承知の上だ』
「……」
『脅威となり得るお前に、最大限の自由を約束しているこちらの誠意を汲み取ってくれ。
お前が我が国にもたらした恩恵は多大な物だが、それでも今回のようなことがまた起これば、我々はお前に銃口を向けなければならない』
「……クソ、……悪かったよ」
『……はぁ、分かれば良いんだ。俺も言い過ぎた、すまない。
それに日本とは手を組みたいと思っていた。もとより日本、いや英次郎とは情報を共有するつもりだったし、別に隠すこともないしな。……議会の者達には怒られるだろうが、まぁいい』
「……」
『世界がバラバラになった今、自国の安全は最優先だが、自国の利益は二の次で良い。よくやってくれた。
それと、……無事でよかった』
「……おう」
電話の奥の彼、フレデリック大統領と、ソファに腰掛けたステラが同時に溜息を吐く。
『……And so,どうだ?日本には
「あー」
『お前、まさか聞かずに帰ってくるつもりだったのか?』
「そう急くな、今から聞くつもりだった。
だが、『王』がいるのは間違いねぇ。……それにアルバの反応を見るに、他にも何かいるのは間違いない。
奴は言うつもりはねぇらしいがな(ボソ)」
ステラが横目でアルバを睨むと、彼はひょい、と顔を逸らした。
『分かった。彼は決して人の味方ではないからな、それも仕方ない。
ではそちらは任せるぞ。俺もやることがあるからな、英次郎によろしく言っておいてくれ』
「ああ」
『迷惑かけるなよ。お前は口が悪すぎるからな。国家間の友好が破綻しないか俺は心配でしょうが――
ブツっ
「……Shut up. Fuck you」
ステラは携帯をアルバに投げ渡し、タハー、と一息吐く。
「……我道ー」
「ん?何だ?」
「『王』に心当たりは?」
「……」
彼の反応に、ステラの口が三日月に歪む。
「ククっ、……詳しく聞かせてもらおうか?」
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