世界多元論
§
この世は表裏。万物表があれば、必ず裏もある。
これはお主らとはまた別の世界、その創世の物語じゃ。
――遥か昔、世界がまだ虚無に包まれていた、暗黒の時代。
大地が歪み、海が汚れ、天が黒く染まる、そんな星に、ある時、1つの『白』が生まれた。
自我も無く、ただ漂うだけだった『白』は、周囲に漂う『魔』を吸収し、形を持った。
自己を認識した『白』は、手始めに天を燃やした。
虚無は炎に包まれ、漂う『魔』が毒から素へと形を変えた。
次に大地を燃やした。
黒かった大地は赤く染まり、猛るように波打った。
最後に海を燃やした。
汚濁した海は干上がり、雨が降った。
紅蓮の雨が世界を浸す中、新たに3つの『白』が生まれた。
1つは『天』に空を。
1つは『地』に芽吹きを。
1つは『海』に叡智を。
4つの『白』は、世界に『色』をつけた。
そして原初の『白』以外、新たに生まれた『白』に殺され、何度も代替わりを経て幾星霜、ある時面白い種族が誕生した。
弱々しくも勇敢に、貪欲に、世界を生き抜くそれらの姿は、見ていてとても愉快だった。
『原初の白』は、それらに、知恵という名の、魔法という名の、『
それらは、『天空』『大地』『冥海』そして『原初の白』、世界を司る4柱を、
『
と呼び、崇め、敬い、そして恐れた。
同時に『開闢の王』に挑み力を欲する、『白』の敵対者を、
『開闢の使徒』
と呼び、警戒した。
『火』を与えられたそれらの成長は凄まじかった。
世界を形作る『魔』に影響を与える程に、凄まじかった。
世界の大流となったそれらは、いつしか特定の『魔』に規則性を生み出した。
それは世界そのものを表した表裏の力。
所有者が死のうと、必ずどこかで同じ力を持った者が生まれる、そんな不変の力。
その力を手にした者を、それらは
『選帝者』
と呼んだ。
そうして始まる戦の時代。頂点に立とうと、あらゆる種族が血を流した時代。
争いの絶えない中、次々と世界に生まれる大きすぎる力を抑制しようと、星は『開闢の王』と対の属性を持つ、4柱の
『調停者』
を生んだ。
時に『開闢の王』を守り、時に代替わりを見届け、時に自分達を守ってくれる『調停者』を、それらは崇め、不可侵とした。
こうして生まれた、バランスの取れた世界は、
……しかし数千万年後、次元の融合によって終わりを迎える。
全ての物質が『魔』へと帰り、次元の穴を通ってもう1つの世界へと産み落とされる。
『魔』はその世界に根付いた、伝説、信仰、価値観、そして欲望を依代に形を変え、新たな力へと、モンスターへと変貌した。
しかしその中で、引き継がれたモノもあった。
『選帝の力』、『開闢の王』とその『使徒』、『調停者』。
世界を構築するこれらの法則は、もう1つの世界へと引き継がれた。
§
「こうして、今我らの立っている世界が出来たのじゃよ」
「…………」
くい、とおちょこを傾けるアルバに、この世界の民達は放心する。
あまりにも途方もなく、信じ難い昔話。それは絵本で読むような、お伽の世界の話だった。
我道はお猪口の中で波紋を描く酒を見つめ、そして尋ねる。
「……アルバ殿、それが真実か否かは今置いておくとして、……何故貴殿は、その途方もない昔話を語れる?」
「……我は『アルバ』。『開闢の王』にして、『聖炎』の名で呼ばれた、『原初の白』じゃよ」
浴衣を着崩し不敵に笑う彼の口元には、人ならざる牙がズラりと並んでいた。
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