3話



 日本を味わってみたいと言う2人のために、我道含め官邸全職員は用意出来る限りの日本文化で2人をもてなした。


 ――疲れた身体を温泉で癒したアルバとステラは、それぞれ初めて見る浴衣に袖を通す。


「ほぉ〜、これはいいの。気に入った」


「有難うございます」




「ステラ様、とてもお似合いですよ?」


「そ、そうか?」


 白地に薄い青の浴衣を羽織るステラ。恥ずかしそうに鏡を見るそんな彼女に、女性職員はニッコリと微笑んだ。


「はい。凄く綺麗です」


「ふふ、そうか。感謝するぞ女」


 ステラは財布から100$紙幣を数枚取り出し、女性職員に握らせる。


「Good job.受け取れ」


「い、いえっ、お気持ちだけで充分ですステラ様」


「これがUS流のお気持ちだ。出した金を仕舞わせるな」


「し、しかし、」


「……」


「……かしこまりました。では有り難く頂戴します」


「それでいい」


 ステラは溜息を吐き、並べられた小物を物色する。


「日本人はチップを嫌がるが何故なんだ?皆金は欲しいだろ?」


「そうですね。……日本人は『おもてなし』の心を大切にしています。私達にはサービスというよりは、ホスピタリティに近いものが根付いているのかと」


「ははっ、高尚な国民性だな。だからこの国は借金が多いのか?」


「ぁはは、かもしれません」


「お前達のそれは美徳だが、そんなに綺麗じゃ搾取されるだけだぜ?この欲望が力を持つ世界じゃ尚更な」


 ステラのブラックジョークに、しかし女性はニコりと笑う。


「……ですがそんな日本とは言え、心から『おもてなし』を意識しているような聖人は、ごく僅かだと思っております」


「……ほぉ?」


「1部が儲け、大学を出ても職すらまともに選べないこの国で、会社のために朝から晩まで働き、他人に笑顔を振り撒くことを強要されていたのが日本です。

 そんな生きるのもやっとな国で、若者に『おもてなし』の心を持てと?」


「ククっ、お前はこの国が嫌いなのか?」


「いえいえ、好きですよ。ちょっと就活時代の不満が漏れてしまっただけです」


「クククっ、続けてくれ」


「そうですね、……『美徳』が輝く程、その裏の『欲望』はもっと深くなります。そしてそれが本来の人間の姿であるとも思っております。そして日本人ほど表裏の激しい人種はいないとうのが持論です。

 もしこの世界で欲望に力が宿るなら、


 我々日本の右に出る者はいないかと」


「クふっ、ガハハハハっ!これは驚いた、ただの社会主義者かと思えば、とんだパトリオットじゃないか!」


 腹を抱えて笑うステラは、椅子に腰掛け不敵に笑う。


「それは俺達アメリカへの宣戦布告とも受け取れるが?」


「めっそうもございません。こんな小国、アメリカの手助けなしでは今まで生き残れていませんから。その御恩は忘れません」


「お前本当に面白いな!」


「有難うございます。ですがこのような無礼が上にバレれば、私はここから生きて出られないでしょう」


「ハハっ。気にするな、俺が許す」


「感謝いたします」


 お召し替えの終わったステラは、女性を連れ廊下に出る。


「気に入った。お前名は?」


如月きさらぎ 日向ひなたと申します。気軽に日向とお呼びください」


「ok.ヒナタ、お前今日1日俺の付き人をやれ」


「宜しいのですか?」


「ああ、俺はもうヒナタじゃないと満足出来ねぇからな」


「ステラ様?言葉遣いが少々はしたないかと。それに上の者に許可を取らないといけませんので」


「チップは弾むぜ?」


「承りました」


「ガハハっ、やっぱ最高だぜお前」


 日向に案内されるまま、ステラは客間へと歩を進めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る