2話
――「……総理、下がっていてください」
新首相官邸の大駐車場。
現在出動出来る最大戦力が、亜門を筆頭に特別警戒体制を敷いていた。
AMSCU、Sat、全部隊がその上空に目をやり、銃を構える。
……ゆっくりと降りてくる、少女と、老人。
一目で分かる。あれはいけない。
亜門は総理の前に立ち、隣の部下に指示を出す。
「今すぐ彦根と千軸を、可能なら近くにいる1級以上の冒険者も全て呼べ。今すぐだ」
「っ了解」
「……見美殿、絶対に能力は使わないでください。アレの気を損ねたら」
「……分かっています」
震える見美を総理の隣に庇い、亜門は隊員達の間を通り進んでゆく。
同時に、2人も地面に足をつけた。
「Hahhhh, I feel grateful for the ground」
「……I remember when I first came to this world」
「……(英語?)」
デニムショートパンツにTシャツ、スニーカーというカジュアルな装いの少女。
年齢は小学校高学年程だろうか。
風に靡く金色のロングツインテール。
見た者を殺しかねない程鋭く、しかし宝石の様に輝く碧眼。将来確実に絶世の美女となる整った顔立ちに見える、外国人特有の色と堀。
その隣に立つ、長身の老爺。
顔に刻まれた深いシワ、真っ白な肌、オールバック風に纏められた真っ白な長髪、真っ白な長い髭。
そして燃え滾る炎の如き、縦に割れた真っ赤な瞳。
亜門は小さく深呼吸して怯えを消し、2人の前に立った。
「We are the Japan Self-Defense Forces. I am sorry, may I ask your names,please?」
「We're from the United States.
「「「「「「「「「「「「「「「「ッ⁉︎」」」」」」」」」」」」」」」」」
「……a?」
勝手に歩き出した少女に、一斉に銃が向けられる。
アメリカという単語に混乱する人々を見て、老爺がケラケラと笑った。
「Thank you for being so polite.But,日本語で結構」
「っ」
「我々2人、しっかりと予習済みじゃ」
「……そうですか。有難うございます」
亜門は驚きを表に出さず、淡々と会話を続ける。
「アメリカから来たと聞こえたのですが、本当ですか?」
「本当じゃ。我とそこな娘は、現アメリカの中ではそれなりに力のある存在じゃ。特使だとでも思ってくれ」
「……何と、」
唖然とする亜門の前に、我道総理が進み出る。
「失礼。私はこの国の総理大臣、我道という」
「ふむ、自己紹介か。この世界では、我は『
「……ああ。とても良い名前だ」
我道はアルバと握手を交わし、次いで隊員に文句を言っている少女を見る。
「あ?んだよ?」
「……貴女の名前を聞きたいのだが、」
「ああ、悪かったな。
「あ、ああ。よろしく頼むMs.ステラ」
彼は困惑しつつもしゃがんで目線を合わせ、物怖じしなさすぎるステラとも握手を交わす。
「ok.じゃさっさともてなせ我道。……おらどけ雑兵ども」
軍隊の前で仁王立ちする小さな少女に、隊員達は困惑する。
「カッカッカ、すまんのう。あやつはああいう人間なんじゃ。大目に見てやってくれ」
「……承知した」
眉間を揉む我道の横に、亜門がス、と寄る。
「……いかがいたしますか総理?(ボソ)」
「……武装を解除させて全部隊を官邸の警備にあてろ」
「いいのですか?(ボソ)」
「構わん。行け」
「了解」
全部隊に指示を出す亜門。その横で我道は来訪者に頭を下げる。
「待たせてしまって申し訳ない。まずは貴殿らに銃口を向けたことを謝罪する。すまぬ」
「よいよい、突然来た我らが悪い。気にするな」
「ご厚意感謝する。見美秘書、2人を客間にご案内してくれ」
「承知しました。アルバ様、ステラ様、こちらへ」
「うむ」
アルバの背を見ながら歩く我道の横に、ステラが並びニヤける。
「英断だぜ我道?よくアレが放つプレッシャーの中武装を解除したな」
「ハハ、客人に武器は向けれんさ。当然のことだ」
「少なくともうちのバカ共はそれが出来なかった。その結果アメリカは、約10万の兵、4000万の民間人、カリフォルニア全域を失うことになったんだからな」
「…………は?」
足を止める我道に、ステラは悪戯っぽく笑う。
「アレをただの気の良いクソジジイだと思わない方がいいぞ?
このクソみたいな世界の玉座に座ってるのは、紛れもなくアルバだからな」
「それは、どういう」
「自分で聞きな。老人は総じて世間話が好きだからな、機嫌良けりゃ国家機密もベラベラ喋るぜアイツは」
「……それをステラ殿は止めないのか?」
「興味ねぇ。俺は俺のやりたいことをするだけだ。今回は俺もアルバも遊びに来ただけだし、気楽にいこうぜ」
「特使なのでは?」
「知るか。名目だよ名目」
「……」
1人険しい顔をする我道は、痛くなる胃を我慢しながら2人の背を追うのだった。
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