幕間 予兆

 




 §




 東条とノエルが沖縄に入ったと同時刻。



 元太平洋、現新大陸上空。雲の下に、1つの大きな影が出来ていた。



 時速数1000㎞を超えて飛行する、100mの巨体。



 大きな翼。


 長い尻尾。


 長い髭。


 威厳の象徴たる2本の角。


 縦に割れた、燃える様な紅蓮の瞳。



 そして太陽に照らされ、純白に輝く鱗。





 その威容は、まさに伝説の体現者。――ドラゴン。





 そしてその背にしがみつき、目の覚めるような金のツインテールを靡かせる女児が1人。


 彼女は見た者を殺しかねない程の青い三白眼で、足元のドラゴンを怒鳴りつける。


「ッhey, you fucking lizard!?テメェ俺を殺す気かァああ⁉︎」


 叫ぶ女児に、トカゲ、もといドラゴンは大きく溜息を吐く。


「ハァ、You told me to hurry up ?」


「ッ俺に一切Gを与えずに急げっつってんだよ‼︎その小せぇ脳味噌にサスペンション埋め込むぞクソボケが‼︎」


「全く、我儘なガキじゃ」


 彼女の周りに魔力の壁が張られ、一切の衝撃が消える。


「ハァ、ハァ、Shit.出来るなら最初からやれ」


ぬしがついて来たいと言ったんじゃろう?自分の身くらい自分で守れ」


「チッ、未来ある若人を守ってこその老害だろ?責務を果たせ」


「もっと年寄りを労われクソガキが、振り落とすぞ」


 ひとしきり言い合った女児は、疲れた、と大きな背中に仰向きで倒れる。


「……ふぅ」


「……主、大統領との会合ほっぽり出して来たろ。大丈夫なのか?」


「グっ、やめろ。その話はするな」


 寝返りをうつ彼女を、ドラゴンはケラケラと笑う。


「カッカッカッ、こりゃまたお叱りじゃな」


「Shit.何で俺があんな低脳共に叱られなきゃいけねぇんだ。どんだけ手ぇかしてやったと思ってる」


「まぁそれは否定出来んな。我も主を見ているのが1番面白い」


「勝手に見てんじゃねぇ変態が」


「……我にそこまでの暴言を吐く愚か者は、数千万年生きてきて主が初めてじゃよ」


「感謝しな」


 反省など犬の餌にでもしてやると言わんばかりの態度に、ドラゴンは呆れる。



「……ハァア、本当に、この世界の『選帝の力』は厄介がすぎる。


 皆が皆、主のようでないことを祈るわい。……のう?『傲慢』の」



「ハッ、人類にとっちゃ、テメェこそ害悪だけどな。……なぁ?『聖炎の王』とやら」



「カッカッカッ!」「ハハハハっ!」



 蒼穹広がる雲の上。世界の真理を握る2つの影が、高らかと笑い声を響かせた。





 §

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