過去への復讐

 


 拳を振り下ろしたゴブリンキングにより、砂が爆発し軍用車が吹っ飛ぶ。

 トランクから溢れる武器の雨がビーチに刺さる中、


 しかし2人は跳躍し、完全にゴブリンキングの初撃を躱し切っていた。


 その身体が纏うのは、魔力。


 本来の彼らが纏うものと比べると、微力で、頼りなく思えるそれでも、その慣れ親しんだ力の奔流は、正真正銘『身体強化』であった。


「フフっ――ッ」


 灰音は着地と同時に地を蹴り、トップスピードでモンスターの群れに突っ込む。

 凄まじい速度で銃を乱射し、モンスターを惨殺し始めた。


「アハハハハッッ‼︎」


 その顔に、溢れんばかりの愉悦を浮かべながら。




「ハハっ、スッゲ」


「ゴルルルル……」


 東条は半身に大火傷を負ったゴブリンキングと相対しながら、イッちまった灰音を見て笑う。


 この種子は、食った者に少量の魔力を与え、気分を最高潮にし、痛覚を消し、他4感を鋭敏にする効果をもたらす。


 デメリットは人間性の崩壊と強力な依存性。だが、今はそんなことはどうでもいい。生き残ったらノエルに治療して貰えばいいのだ。


「…………」


 東条はショットガンを左手に持ちかえ、右手でビーチに刺さったナタを引き抜く。


「……テメェ、灰音に何しようとした?」


「ゴルォッ‼︎」


 振り抜かれた拳をバックステップで躱し、踏み込む、懐に潜り込み、脇腹にナタを突き刺しへし折った。


「ガァっ⁉︎ッ」


 振り払われた掌を転がって躱し、距離をとる。


 刀身の折れたナタを捨て、今度はビーチに刺さったマチェットを引き抜いた。


「……いつもいつも、テメェは俺から奪おうとする」


「グルァアッ‼︎」


「……いつも、いつも、いつもっ」


 拳の横薙ぎを屈んで躱し、

 叩きつけを横に跳んで躱し、

 振り抜かれた拳をバックステップで躱した、瞬間、


「――ッ」

「ガッ、ァア⁉︎」


 マチェットを回転させ、伸びた腕に思いっきり突き刺し、同じ場所にゼロ距離でショットガンを発砲。刀身を折ると同時に、刃を肉の奥深くまで押し込んだ。


「……」


 抉れた腕を抑えるゴブリンキングを前に、東条は折れたマチェットを捨て、新たにビーチからバトルナイフを引き抜く。


 あの時と同じ怒りを目に、



「…………地獄見せてやる」



 白砂を踏み抜いた。


「――ッ‼︎」「ゴルォア‼︎」


 バトルナイフ突き刺し、発砲、折る。

 転がり、拾い、突き刺し、発砲、折る。

 引き抜き、突き刺し、折る。

 発砲、躱し、突き刺し、発砲、折る。

 突き刺し、折る。

 突き刺し、折る。

 突き刺し、突き刺し、突き刺し、突き刺し、発砲発砲発砲発砲、へし折る。


「ゴッアアアアアッ‼︎‼︎」

「っ、っ、っフゥっ」


 唸る拳を躱し、跳躍し躱し、躱し、躱し、躱し、躱し躱し躱し躱し、リロード、発砲、発砲発砲発砲発砲、突き刺し、発砲、折る。


 ショットガンを振りかぶり、


「ラァッ‼︎」

「ゲブ⁉︎」


 ブサイクな顔面にフルスイング。数本の歯を飛ばした。


「ハァ、ハァ、ハァ、っハハッ!苦しいか?良ぃい表情だなァオイ⁉︎」


「ゴフゥ、ゴフゥ、ゴフゥ……」


 ゴブリンキングは傷口から血をを噴き出しながら、目の前の男を睨む。

 身体中に埋め込まれた刃が筋肉の可動を阻害し、動くたびに激痛が走る生き地獄。


 しかし何より許せないのは、いきなり現れ、自分のメスを横取りし、仲睦まじ気に話すその蛮行。


 ――万死に値するッ!


「フゥグルァアアッ‼︎」


「ッ見苦しいナァ⁉︎」


「っガルォオ‼︎」


「っ男なら黙って、ッ寝取られてろやァ‼︎」


「っ、ゴルァッ‼︎」


「っ、チィッ」


 東条は巻き上げられた砂から、距離をとろうと跳躍。するも、


「っ‼︎ッゲフ」


 隠れ距離を詰めたキングの大ぶりが直撃。ガードの上から押し飛ばされそうになる。


 しかし、


「ッッギヒっ」


 血を吐きながらも、根性で浮いた足を全力で地面に突き立てた。

 飛ばされないようぶっとい腕を掴み、伸びた肘にショットガンをぶっ放す。


「ゥギャア⁉︎」


 離れようとするキングに張り付いたまま、何度も、何度も、何度も何度も、同じ場所に銃弾を撃ち込む。


「――ッ、ッ、グフッ、ゥグッ」


 振り回され、地面に叩きつけられ、血反吐を吐き、それでも離さない。


 痛みに耐えられなくなったキングが彼を引っぺがしぶん投げる頃には、その肘から先はプラプラと力なく揺れることしかできなくなっていた。


「ゲホっ、ハハハッ!ォオエっ」


 血の塊を吐き出し笑う男に、キングは冷や汗を垂らす。

 何だこいつは?本当に人間か?……否、今自分の目の前にいるのは、生物としての感覚を忘れた何かだ。


 集中しろ。この世で最も恐いのは、己を捨てた生き物に他ならない。


 キングは腕を千切り、東条に向かってぶん投げ、地面に手を突き突貫した。


「――ッ」「――ッハハァ‼︎」


 リロード。東条も地を蹴り、飛んで来た腕を弾き真正面から突っ込む。


 回し蹴りをスライディングで躱し、通り抜けざまハンドガンを拾う、踏みつけを転がって躱し顔面に数発撃ち込み、顔を庇ったキングの腹に懐に隠していたサバイバルナイフを突き刺し、ショットガンを発砲、反動を利用して後ろに跳躍した。


「ゴァっハ……」


 ビタビタと血を流し、膝をついたキングに向けて着地と同時に突貫。


 ゼロ距離で脳天にショットガンを向け、




 ――ダァンダァン‼︎




 発砲…………?


「……?コフっ」


 東条は自分の腹に空いた2つの穴を見て、次いでキングの、その大きな手に握られた拳銃に驚く。


「ゲひひっ」


 キングの顔に張り付くのは、してやったりという愉悦の笑み。


 ……あの時と同じ、虫唾の走る笑み。


 東条はボタボタと漏れ出る血で砂を赤く染め、


 しかし、


「クヒっ‼︎」「――ゴ⁉︎」


 一瞬の躊躇いもなく引き金を引いた。


「――ッグルォオオッ‼︎」


 頭皮が吹き飛び無理矢理土下座させられたキングは、上半身を跳ね上げアッパーで東条の顎をカチ上げる。


「ッギャバッハハハハっ‼︎」


 砕けた顎。飛びかける意識。しかし東条は自らの血で拳を滑らせ、再度銃口を突きつけ、発砲、頭蓋を砕き再び土下座させる。


「っゴフゥッ!」


 これはマズいとキングが振り抜いた雑な大ぶりを、ナイフを指に挟んだ拳で全力で殴りつける。メキメキメキッと腕が変な方向に曲がることなど一切気にせず、ナイフを押し出すようにショットガンを放った。


「ゥガァアアア⁉︎」


 ゴリゴリゴリッと腕の中を爆進するナイフは、今まで突き刺した刃と連動し、キングの肉と骨をグジュグジュに掻き回した。


 両腕が使い物にならなくなった血だるまのキングはタックルで東条を吹っ飛ばし、跳躍し、馬乗りになり、その首に噛みつこうと大口を開け、


「ッゴェ⁉︎」


 ――瞬間、上顎が何かにつっかえ、首が止まった。


「……」


 東条は砂の中から持ち上げた対戦車ライフルをキングの顎に突き刺し、目の前の絶望の表情に頬を歪める。


「……テメェの笑顔が、1番嫌いだよ」



 赤いビーチに轟く1発の凶弾。


 反動で東条の肩が外れると同時に、ゴブリンキングの頭部が破裂した。






「……」


 だらりと手を垂らした彼は、天を仰ぎ、鉄臭い潮風を吸い込む。





「…………今度はちゃんと、守れたぜ……紗命」




 満足気な表情を残したまま、血溜まりの中にぶっ倒れた。

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