乱入者
「……っ……」
お尻の下には、サラサラとした砂の感触。
耳に届く波の音。
ぼんやりと焦点の合ってくる目に映るのは、綺麗なビーチ。
……そうか、横断は出来たんだ。
これだけ離れられたなら、きっと2人はもう大丈夫だ。
寄りかかっていたヤシの木を支えに、立ち上がり、痛む頭を抑える。
「……ふふっ」
灰音は掌にべっとりとついた血に、己の死期を悟る。
そして顔を上げると、そこにいたのは、
「最後は君か……」
ギョロついた目で自分を見下ろす、1匹のゴブリンキングだった。
灰音は拳銃を抜こうとするも、
「……無駄、だね」
……しかしその指から力を抜き、手を上げる。
「いっそ一思いに殺ってくれ。痛いのは嫌だからね」
こいつが2人を見つける前に来れて良かった。覚悟を決めた灰音は、
「っぐ」
瞬間鷲掴みにされ、持ち上げられる。
そして見てしまった。
ゴブリンキングが自分に向ける、下卑た笑みを。
「ッ、あガ⁉︎」
舌を噛み切ろうとするも、太い指を口に突っ込まれ邪魔される。
「ッ、ッ」
「ゴフフ……」
嫌悪と恐怖の中、何故あの日ノエルが自分を襲ったのか理解した。いや、考えれば簡単なことだったんだ。
『好意』に比例して性的欲求が上がるのは人間なら普通のことだ。
人間と同等以上の知能を持つモンスターが、人間と同じ反応を示すのも、
また、普通のことだった。
「……」
……本当に、僕は愚かだな。
灰音の瞳から色が消える。抗うも無意味、自死は出来ない、……絶望。
彼女の全身から力が抜け、だらりと垂れ下がった。
「ゴフっ」
「っ……」
それを合意と受け取ったゴブリンキングが、彼女の服に手を伸ばし、
……いつもこうだ。何をやっても失敗する。
どこから間違っていたのか?
僕が島の人を殺さなければ?
僕がcellを発動しなければ?
2人とちゃんと出会えていたのだろうか?
こんなことにはならなかったのだろうか?
……僕が生まれていなければ、お父さんも、お母さんも、死なずに済んだのかな?
ゴブリンキングの口元が三日月に歪み、彼女の胸元を掴んだ。
灰音の頬を、はらり、と一筋の涙が伝った。
…………――その時だった。
「ゴギュアッ⁉︎⁉︎」「――っ⁉︎キャ」
手を出せずにいたモンスター共を蹴散らしながら1台の軍用車が林の奥から飛び出し、そのままゴブリンキングに衝突し引きずり飛ばした。
急ブレーキをかけるベコベコの車。波間に吹っ飛ぶゴブリンキング。
結構な強さで解放された灰音は、咳き込みながらも起き上がり、意味の分からない状況に目を白黒させる。
そんな彼女などお構いなしに、ドアを蹴り開け出てきた男は、水飛沫を上げ怒り狂うゴブリンキングに向かってロケットランチャーを発射。
爆音と盛大に打ち上がる水煙を背に、
「迎えにきたぜ」
彼は笑った。
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