Giving back
「……っく、ぅ」「……いてて、」「んんん」
ダッシュで奥に避難した3人は、収まった地鳴りに頭を上げる。
「……」
恐る恐るドアの隙間から外を覗くと、そこに先までの血の池は見る影もなく、禿げた大地にバカデカいクレーターが数個出来上がっていた。
東条はドアを開け、目の前で痙攣するハイオークに数発撃ち込み、辺りを見回す。
起き上がるモンスターもいるが、大方重症。ひとまず乗り切ったか。
とその時、遠くで何かがむくりと起き上がった。
……目を細め、注視し、そして見開く。
「……っ、化物が」
片腕と片ツノを無くし、全身焼け爛れた水牛ミノが、もう1匹の死体を退け鼻息を荒げる。
このミノは爆発直前、仲間を引き寄せ盾にし、運良く剥がれた荷台の鉄板に乗って、熱と爆風の威力を極限まで減らしたのだ。
足を引きずり歩き出したミノに、東条もショットがんを握りしめ踏み出す。
「っ」
そんな彼の手を、灰音が掴んだ。
「っ桐将君、ダメだよっ、あれはダメっ」
悲痛な表情を浮かべる彼女の手を、東条は優しく振り解く。
「他の奴らは放っといてもいい。でもアイツだけは生かしといちゃいけねぇ。籠るにしてもドア破壊されて終わりだ」
「そんなのっ、……」
後からまた新しいミノタウロスが来たら終わり。そんな慈悲もない仮定を、灰音は呑み込んだ。
今を生きようとしている人間にかけるには、あまりにも惨い言葉。
「ノエル、ライフルまだあるか?」
「……本当にやる?」
「お前も分かってんだろ」
「……」
「桐将君っ」
手を伸ばそうとした灰音は、その手を引っ込め、代わりに彼の背中を追う。
「っ……僕もやるよ」
「……ありがてぇが、ダメだ」
「何で!」
「お前はノエルを守ってくれ。俺の命はこいつの腕にかかってる」
「っ」
足を止めた灰音は、そのまま進んで行く彼の背中を悔しそうに睨みつける。
「っ分かったよ!分かったからっ、攻撃全部躱すんだよ‼︎」
「……無茶言うぜ」
ヒラヒラと手を振る東条は、そんな無理難題を鼻で笑った。
「……さ〜て、」
東条はショットガンを肩に担ぎ、左手で薬莢を掴む。
心臓がバクバクと煩い。喉には血の味がべったりと張り付き、気を抜くと足腰から力が抜けそうになる。
今まで何度も窮地を脱してきたが、それはcellの能力を駆使出来たからだ。
生身で上位モンスターと戦うのが、どれ程無謀なことなのか、……最早乾いた笑いが出てくる。
「……マジで死ぬかもな」
今まで感じたことのない類の、明確な死の気配。
戦闘中に何度も感じた強いものではなく、這うように近づいてくる死の気配。
「……ここが分水嶺ってか。……なぁ?」
「ブフルルルルッ」
「何だ?仲間ステーキにして食われたの怒ってんのか?悪かったって」
「……ゥルル」
血混じりの鼻息を立てるミノに、東条は笑いかける。
「……ま、美味かったけどよ」
「――ッ」
「――ッ」
瞬間地を跳ねたミノに合わせ、大きく横に跳びながら発砲。胸部に命中。
しかし、
「っ」
その筋肉に締めとられ、めり込んだだけで内部まで届かない。
「ブルァア‼︎」
「ッ」
振り下ろされる拳を、大きく後ろに転がって躱す。続けて2発。立ち上がると同時に横に跳び2発。
顔を狙って撃ち続けるも、目にだけは当たらなよう頭骨でガードするミノに舌打ちする。
「フブルゥッブルゥ、ッ」「ハァッハァッ、ッ⁉︎ぶね」
ヘルメットが振り抜かれた拳に擦り、大破する。
振り下ろされた拳によって地面が砕け、石礫が頬を抉る。
突き出されたツノを躱すも脇腹を抉られ、そのまま掬われぶん投げられる。
「――ッ、っ、」
受け身と同時に回転、跳躍、跳躍、横薙ぎの拳をしゃがんで躱し、一気に前へ出た。
「ブル⁉︎ッッヴァガガガ⁉︎」
ショットガンを縦に構え、顎の下から3連発。ミノの顔が大きく上を向いた。
直後、
「今だノエル‼︎」
――ズガァンッ‼︎
完璧なタイミングの狙撃が、ミノの頭部を撃ち抜かんと放たれた。
入った。
誰もがそう確信した瞬間、咄嗟に頭部を傾けたミノ。弾丸はツノに直撃し、ツノを粉砕するも角度を変え彼方に消えた。
下顎も両ツノも無くなったミノが、ベロをだらりと垂らしたまま顔を下ろす。
その目線の先には。
「――ッやbッッッッゴふゥっ⁉︎⁉︎」
東条はガードに回すも一瞬で大破したショットガンと一緒に、自身から鳴るベキベキベキッ、という音を聞きながら盛大に吹っ飛んだ。
「ッ⁉︎桐、桐将君ッ‼︎――ッどケェ‼︎‼︎」
林近くまでスライドする東条を目に、灰音は周囲のモンスターをぶち殺し全力で駆け出す。
「あ、……あ、」
ライフルを落とすノエルも、泣きそうになりながらズルズルと蛇の身体を引きずって彼女の後を追う。
灰音が2丁拳銃を連射するも、ミノは意に返さずグッタリとした東条に拳を振り上げる。
「ッやめろ‼︎こっちだ‼︎こっちを見ろ‼︎」
「マサっ、マサッ」
遠い。届かない。間に合わない。どうしようっ、どうすればっ⁉︎嫌だ嫌だ嫌だっ!
灰音の叫びは、しかしモンスターに通じはしない。
本来の彼女の能力なら、その場からミノを動かすのは容易かっただろう。1番必要な時に使えないゴミ能力。
「やめてっ、お願いっ、お願いッ、その人はっ私にとって、」
灰音は自身の非力さと愚かさに泣きながら、切り取られた光景に手を伸ばす。
だがそれがどうした?ミノが振りかぶった拳を振り下ろ
そうとしたその時だった。
「ガルァアアア‼︎」
「ブルォ⁉︎」
林から何かが勢いよく飛び出し、ミノの腕に噛み付いたのだ。それも1匹だけではない。次々と飛び出してくるその数20。
燃えるような立髪、大きな口、ギョロついた瞳。ボスを筆頭に、シーサーがミノ目掛けてその牙を向いた。
「ガルオ‼︎」「バウガァ‼︎」「バフゥ‼︎」「ガルルルル‼︎」「バッファ‼︎」「バウ‼︎」「ガウワッ‼︎」「ワンバウッ‼︎」「ガグルッ‼︎」「ゥルァッ‼︎」
「――ブルァ⁉︎ブガァア‼︎」
「ガゥアッ‼︎」「ギャン⁉︎」「ギャルァ‼︎」「ガルガルガルッ」「グラゥ‼︎」「バルガゥッ」「ゴルァア‼︎」「グルゴァ‼︎」「ギャラァ‼︎」
「……ワフっ、ワフワフ」
「……ん?――っべ、意識飛んで、た……あ?」
「ワフ!」
東条は勢いよく起き上がり、ベロベロと顔をなめられながら目の前の光景に放心する。
……何だこれ?夢か?いや、夢でもいい。とりあえずアイツは殺す。
「いつつ、ちょい乗せてくれ。……お」
「ワフ!」
シーサーに跨った東条は、初っ端で投げ捨てたポンプアクション式ショットガン、レミントンを見つける。
「あれ拾ってくれ!ゲホっ、……サンキュ!んじゃ突撃!」
「ワフゥ‼︎」
野生の犬の凶暴性は、人の想像を遥かに上回る。
ボスに至っては5mを超えるの超大型犬20匹VS死ぬほどボロボロの牛。
結果など見なくても分かる。
「ブヒュー……ブヒュー……」
両膝をつき、今にもぶっ倒れそうな血だるまのミノをシーサーがはっ倒し、その上に東条が着地。
無くなった口に向けて銃口をブッ刺した。
「……」
ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎ガシャコン、ズダァン‼︎カシャ、カシャ、
投げ捨て、扉に向けて指を差した。
「退避ぃいいい‼︎」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ワォオオオンッ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
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