防衛ライン突破
「……あ、やべっ」
「?」「『?』」
勢いよく立ち上がる東条を、疲れ切った灰音が不思議そうに見つめる。
「今俺、諦めようとしてたわ」
尻についた血肉を払い、東条は一瞬自分の中をよぎった考えを振り払う。
「……ごめん、もう1回言ってくれる?耳が、」
「あーいいよ別に、っ大したこと言ってないから!」
「、そっか」
軽く笑う灰音の目は、どこか暗く、何かを考えるように伏せられている。
「『……マサ、灰音、集合。まずは重火器で迎え撃つ』」
「あいよー。……行くぞ灰音!」
「っあ、うん。……」
東条はそんな彼女を引き連れ、再びノエルのいる高台へと登った。
とそこでガトリングのハンドルを持つノエルの小さい手に目がいく。
「……おま、それ」
「問題ない」
雑に包帯が撒かれたその手には、決して少なくない量の血が滲んでいた。
当然だ。大人でさえ反動に手こずる兵器を、何時間も、何時間もぶっ通しで撃ち続けていたんだ。
今のノエルには、その見た目通りの耐久力しかない。一体、どれだけの痛みを耐えたのか。
「……だな。まだまだ頼むぜ?」
しかし東条は彼女の頭を撫で、笑った。
今ここで、自分がノエルの覚悟に水を差す必要はない。その優しさを、きっと彼女は喜ばない。
「……ん」
何より微笑むノエルの表情が、それを証明している。
「……」
ただ、その場で灰音だけは、傷だらけの東条とノエルを見て口を閉ざしていた。加えて目に映るのは遠方から迫ってくるLv3以上の大群。
……灰音は笑顔で顔を上げる。
「ねぇっ、2人とも?」
「おい灰音!いつまでボケっとしてんだ⁉︎来るぞ!」
「あ、あの!」
「灰音、手大丈夫?ガトリング撃てる?」
「う、てる。けど」
「なら準備だ‼︎こっからが本番だぜぇ!」
テンションが
「……ふふ、うん、そうだね」
彼女は元の笑顔を貼り付け、ハンドルを握った。
「……」
東条はそんな灰音を横目で見ながら、榴弾を装填するのだった。
大量のホブゴブリン、ホブゴブリン亜種、ハイオーク、アロサウルス、巨大昆虫、巨大爬虫類、プテラノドン、そして先頭を走る、2体の水牛型ミノタウロス。
空気が押し潰される程の圧力に、3人は唾を飲み込み、
射程圏内に入った瞬間、
「「「――ッ」」」
一気に引き金を引いた。
音速を超えた鉛玉と爆撃の雨の中、無惨に吹き飛び臓物を撒き散らす同胞を、
「グルァアア‼︎」「ギャァアア‼︎」「キュア‼︎」「ゴルォオ‼︎」――
しかし強者達はお構いなく盾に使い、トラックへとグングン接近してくる。
加えて、
「ッマサ交代‼︎」
「っ」
転がったノエルはロケットランチャーを発射し、接近してきたプテラノドンを撃ち落とす。
今ガトリングを下から外すことは出来ない。仕方のない選択。
しかしそれは、榴弾砲とて同じだった。
爆撃がやんだ隙を見逃さなかったミノ2体は、ハイオークを引っ掴み振りかぶる。
「っまさか⁉︎ッ‼︎」
「「っ」」
東条が2人を抱き、高台から落下する形で飛び降りた直後、
「「「ッ⁉︎」」」
高速で飛来した肉の塊が、高台を木っ端微塵に吹き飛ばした。
東条はその馬鹿げた膂力に全力で舌打ちする。200mはあった。その距離をっ。
「クソがッ!ノエル、これ以上は無理だっ。使え!」
「ん!」
懐から1つのリモコンを取り出したノエルは、2人と一緒に竪穴の中へ入り鉄のドアを閉め、隙間からモンスターの群れがトラックに近づくのをギリギリまで待つ。
これは最後の手段だった。勝利を捨てる選択だ。
何故なら押せば、守りの要が無くなるのだから。
ミノ2体がトラックに飛び乗った。
――刹那、
荷台一杯にC4を詰め込んだ軍用トラック10台が、轟音を轟かせ戦場に巨大な爆炎を咲かせた。
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