人の身

 




 ――――彼らは戦い続けた。


 たった3人で、1000の敵と戦い続けた。


 一体どれだけの時間が経ったのか、1時間、2時間、3時間、4時間、

 そこからは数えるのをやめた。


 休憩はたまに来る弱い波の時、交互に1分とるだけ。


 その時に水分補給、エネルギー補給、弾薬補給を一気に行い、再び戦場へと戻る。


 休憩中1人となる東条と灰音を守るため、必然的にノエルの休憩はなくなる。ノエル自身が了承したことだった。


 猛烈な血の臭いと、吐き気を催す肉の感触の中、永遠とも思える時間引き金を引き続ける。


 そんな常人なら気が狂う程の地獄に、しかし3人はまだ足をつけ立っていた。



 ――「っハァッハァッハァッ、灰音っ!、ハァッハァッ、吐くなっ!飲み込めっ!」


「っング、……ん、ヒュッヒュッ、ヒュー、ごめ……ゴメ、ん」


 食べた携帯食糧を戻しそうになる彼女を庇いながら、東条は使いすぎて銃口がイカれたショットガンを投げ捨て、背中の最後の1本を引き抜く。


 疲労で震える自分の指をテーピングで無理矢理引き金に固定し、撃つ、撃つ、撃つ。


「ハァッハァッ、――っハァアアアアッ!ハハハハッ、立て灰音‼︎笑え‼︎笑い殺せ‼︎」


「ヒュゥ、ヒュぅ、……ング、はぁ、はぁ、っふふっ、っ桐将君も顔引き攣ってるよ!」


「あ⁉︎もっとデカい声で喋れ‼︎」


「顔‼︎引き攣ってるよ‼︎」


「ぶっ飛ばすぞ‼︎」


「『マサうるさい!』」


「あぁあ⁉︎」


「あはは!っゲホっゲホ、ッ」




 ……東条がどれだけ強かろうと、


 灰音がどれだけ人を超えた身体能力を持っていようと、


 ノエルにどれだけ優れた頭脳と作戦があろうと、



『数』という暴力の前には等しく無価値。



 特殊能力が無い世界で、個が群に勝つことは不可能なのである。


 そしてそんなことは、3人とて戦う前から分かっている。


 じゃあ素直に諦めて、殺されて、食われるのか?


 ……違うだろ?


 だから笑うのだ。だから叫ぶのだ。だから抗うのだ。


 希望という一縷の光があれば、それだけで、それだけで……、……




 エリア内を掃討した東条は、ビチャ、と地面に腰を下ろし叫ぶ。


「ハァっ、フゥ、フゥ、っ(波が止まった⁉︎)今のうち休むぞ‼︎あと新しいベスト……」


「……」「……」


「……?」


 しかし、……何だ?遠方を見たまま固まる2人に、東条もトラックの隙間から遠くを見る。


 東条はそこで、ノエルの仮説を思い出した。


 この島を囲む魔素消失攻撃は、その者が強い個体であればある程強力に作用する。


 何故ならそれは、その者がより多く魔素の恩恵を受けていることに他ならないからだ。


 それでも自分達人間が軽い影響しか受けていないのは、元々魔素を知らない地で生きてきたから。

 つまり身体の作りが、そもそもこの現状に適応出来ているからだ。


 故に分かること、それは、現状最も回復に時間がかかっているのは、元々地球にいなかった『モンスター』であり、その中でも強者に分類される者達だということ。


 そう、つまり



 ……今遠方に現れた、自分達に向かって尋常ならざる狂気を滾らせている者達のことだ。



「……」


 東条は尻をついたまま、天を見上げ、


「……ははっ」


 その日初めて、何かが折れる音を聞いた。

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